コロナ感染で細胞が老け、慢性炎症が拡大!?
根来 最近の研究では、新型コロナウイルスの感染で細胞老化が引き起こされ、慢性炎症につながることもわかってきています。
いし コロナで細胞が老けるの!?
根来 感染細胞は免疫細胞や修復機能を持つ細胞を呼ぶための信号として、炎症性サイトカインを出します。しかし、その炎症性物質は周囲の細胞にも影響を及ぼし、感染していない周りの細胞の働きも低下させます。炎症が長引けば細胞の遺伝子が正常に働かなくなり、異常なタンパク質を作り出し、細胞の劣化を招くのです。
いし そして、老化細胞になる?
根来 ですね。老化細胞は染色体の末端にあるテロメアが短くなって分裂・増殖機能を失った細胞です。テロメアは「命の回数券」とも呼ばれますが、細胞老化の時限装置として働いています。テロメアが短くなるということは、DNAが損傷を受けるリスクが高まっていることを意味します。
いし それは非常事態だ!
根来 というわけで、老化細胞は助けを呼ぶために炎症性サイトカインを分泌するのですが、老化細胞はなかなか死なず、炎症が慢性化しやすいのです。
いし 老化細胞はご長寿なの?
根来 老化細胞は「アポトーシス」を回避する術を持っていて、体内に長く居座る傾向があるんですよ。
いし アポトーシスとは、いわゆる「細胞の自死」ですよね?
根来 はい。細胞に搭載されている、異常が起きると自死するプログラムです。僕のハーバード大の研究室ではアポトーシスが起こるメカニズムを解明し、その成果は『Journal of Biological Chemistry』 という国際的医学誌に掲載されました。通常、感染細胞は1週間ほどで死んで脱落していき、その埋め合わせに細胞分裂が起きて、健全な細胞が補われます。
いし よくできてる!
根来 ところが老化細胞は不具合があってもけっこう長生きなので、老化細胞が増えると慢性炎症になりやすく、慢性炎症が起きると細胞の老化がさらに進み、組織や器官も衰えていきます。老化細胞からは発がん作用のある物質が分泌されることもわかっていて、発がんの引き金にもなります。
いし 老化細胞を除去すれば、慢性炎症も抑えられ、さまざまな病気を防ぐことができるのでは?
根来 実際、そういう研究が進んでいて、最近では老化細胞を除去する「GLS1阻害剤」が開発され、注目を集めています。
ただ、細胞は老化することで、分裂や増殖によって自らが異常な細胞となったり、がん化したりするのを未然に防いでいる面もあるんです。寿命を延ばすとされる方法には、たいてい致命的なリスクが伴うものです。今後さらなる研究が必要です。
いし では、慢性炎症を起こしやすい人の特徴は何ですか?
根来 ズバリ、毛細血管が劣化している人です。炎症性サイトカインは毛細血管を通じてさまざまな場所に広がります。特に新型コロナウイルスは、血管の内側にある内皮細胞に感染しやすく、内皮細胞だけでできている毛細血管は格好の侵入経路。持病のある人が重症化しやすいのは、毛細血管が全身的に弱っているからです。一方、高齢でも毛細血管の状態がいい人は、炎症レベルを低く抑えられ、年を重ねても元気で若々しくいられます。
<1>新型コロナウイルスに感染した細胞が周囲の細胞を老化させる
新型コロナウイルスに感染した細胞が炎症性物質(炎症性サイトカイン)を出し、周囲の細胞が老化していきます。
<2>老化細胞が慢性炎症を引き起こす
感染した細胞は1週間ほどで死にますが、老化細胞は生き続けて炎症性物質を出します。炎症のパワーは落ちるものの、ゆるゆると周辺の細胞に広がり、くすぶり続けて慢性炎症に。
いし 根来教授は、新型コロナパンデミックが起きるずっと前から、毛細血管の重要性についてたびたび説いていらっしゃいました。2016年にはこの連載をきっかけに毛細血管の本を刊行しました。
根来 ハイ。毛細血管は新型コロナウイルスの主戦場です。内容的にはまったく古びておらず、新型コロナの予防・後遺症対策にもなるのでぜひ参考にしていただきたいです。
『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業 毛細血管は増やすが勝ち!』
集英社 1,375円
専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など。『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業 「毛細血管」は増やすが勝ち!』(ともに集英社)など著書多数
いしまるこ(いし)
ラクに生きたいだけのぐうたらライター。慢性炎症対策を講じて夏バテに備えたい!
撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 構成・原文/石丸久美子