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【第165回】眠りが浅いと脳はゴミ屋敷に!? /根来秀行教授 眠っている間に脳のゴミを洗い流す「脳脊髄液」とは?

根来秀行 さん

根来秀行 さん

医師、医学博士。1967年、東京都生まれ。この連載から生まれた『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業 「毛細血管」は増やすが勝ち!』(いずれも集英社)が好評発売中。ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部客員教授のほか、奈良県立医科大学、信州大学特任教授、高野山大学など、複数の大学の客員教授・教授を兼任。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、世界の最先端で臨床・研究・医学教育にあたる。

Hideyuki Negoro MD and PhD

Professor of Medicine, Director, Visiting Professor

Harvard Medical School
University of Paris
The Graduate School of Project Design
University of Tokyo
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世界を股にかけて活躍するハーバード大学&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行ドクターが、健康に関するあれやこれやの素朴な疑問やお悩みを最先端医学の見地から解き明かし、健やかな体と心を取り戻すための改善策をアドバイス。今回は睡眠中の脳についてのご質問に根来教授がお答えします。

Q
「睡眠の良し悪しは脳の働きを左右すると聞きますが、寝つきが悪く眠りも浅いせいか、朝起きたときから頭がだる重く、脳にもやがかかっているような感じです。眠っている間に、脳の中でいったい何が起きているのか知りたいです」

A

私たちがぐっすり眠っている間、脳はせっせとゴミ出しをしています。眠りが浅いと脳に老廃物がたまって脳内環境はゴミだらけに。認知症のリスクも高まります」

 

「脳脊髄液」が眠っている間に脳をクリーンな状態にしてくれる!

起きているときも、寝ているときも、脳には1分間に700mlもの血液が集まります。それに伴って脳内には大量の老廃物が出ます。脳に出た大量のゴミを洗い流してくれるのが「脳脊髄液」です。

 

脳脊髄液は頭蓋骨の中にある無色透明な液体です。
脳はやわらかくて衝撃に弱いので、硬い頭蓋骨の中で脳脊髄液に包まれて保護されているんです。それはたとえるならパックの豆腐のような感じです。豆腐はつぶれないように水を張った密閉容器に入っていますよね。豆腐が脳、密閉容器のパックが頭蓋骨でその中の水が脳脊髄液というわけです。

 

ただし豆腐パックの水と違い、頭蓋骨の中の脳脊髄液は掛け流し源泉のように周期的に入れ替わっています。

日々大量に出る脳の老廃物は、循環する脳脊髄液の流れに乗って脳の外に排出され、脳表面の静脈から回収されて処理されます。

脳は眠っている間に脳脊髄液によって水洗いされ、クリーンな状態になるのです。

 

脳をクリーンな状態にする「脳脊髄液の流れ」

脳脊髄液は脳室(脳の深部にある隙間)で1日に約500ml作り出され、脳表面の軟膜とクモ膜の間の「クモ膜下腔」へと流れ、脳表面と背骨の中にある脊髄(脳から続く中枢神経)を循環します。循環を終えた古い脳脊髄液は脳の表面にある静脈へと排出され、1日に3〜4回フレッシュな脳脊髄液に入れ替わります。

 

 

脳脊髄液による脳のゴミ出しは、深い眠りの中で行われる

実は、脳脊髄液による脳の老廃物処理システムが発見されたのは、近年になってからです。脳にはリンパ管がないため、脳内の老廃物がどのように処理されるかは長年の謎だったのです。

その謎が解明されたのは2013年のこと。アメリカ・ロチェスター大学の研究チームが、脳の血管周囲に密着している「グリア細胞(神経細胞以外の脳細胞の総称)」が、血管の周りに脳脊髄液を循環させる水路のようなルートを作っていることを発見。そこで老廃物処理や栄養補給が行われていることが明らかになりました。

 

この脳内リンパ系システムは「グリア(glia)」と「リンパ系の(lymphatic)」を合わせて「グリンパティックシステム」と命名されました。

脳細胞の陰の主役「グリア細胞」については以前、この連載で取り上げているのでこちらもご参考に。

 

 

グリア細胞の一種で最も多い。突起が星(アストロ)のように見えるため「アストロサイト」と呼ばれる。突起を伸ばして脳内を走る毛細血管から神経細胞に栄養を運んだり、外界からの不要な物質が入り込まないようバリアの役目もする。

 

脳の排水路はノンレム睡眠時に開かれる!

脳のゴミ出し機関、グリンパティックシステムが最もよく働くのは、ノンレム睡眠中のいちばん深い眠りのときです。

 

日中の脳のグリンパティックシステム

日中は神経細胞(ニューロン)やグリア細胞が活発に働くため、脳内は脳細胞でギュウギュウに埋め尽くされ脳脊髄液の流れは緩慢。老廃物がたまりやすい。

 

ノンレム睡眠時の脳のグリンパティックシステム

起きているときは活発だった神経細胞もノンレム睡眠の深い段階に入ると休息モードに。グリア細胞もおとなしくなって小さくしぼむ。グリア細胞が小さくなることで脳内に隙間ができるので、脳脊髄液の通り道ができて、脳にたまった老廃物もしっかり洗い流される。

 

脳脊髄液の流れが悪化すると、認知症のリスクも上がる

ノンレム睡眠の中で深い睡眠がきちんと確保できれば、脳脊髄液が脳の老廃物をしっかり排出してくれて、翌朝の目覚めもすっきり。頭がよく働いて、日中のパフォーマンスも上がります。

ところが眠りが浅いと、脳脊髄液の流れが悪化し、日中に出た脳の老廃物が回収されず、脳内はゴミ屋敷状態に。
脳の疲れが取れず目覚めも悪く、頭が回らない、イライラする、疲れやすいなど、不定愁訴が出てストレスがたまりやすくなります。
脳の老廃物が十分に流されないと、アミロイドβなど有害なタンパク質も脳に蓄積しやすく、認知症を引き起こすリスクも高まります。

 

眠りの質の低下は、脳脊髄液の流れを阻害する最も大きな要因ですが、その背景には交感神経の上がりすぎがあります。

夜遅くまで活動し、眠る直前までスマホをいじっている現代人の生活スタイルでは、夜になっても活動の交感神経が上がりっぱなしで、リラックス時に上がる副交感神経が下がったまま。それでは神経細胞が休まらず、脳脊髄液の流れる余地がありません。

 

脳脊髄液の流れをよくするには、交感神経と副交感神経が適度に入れ替わるメリハリと、同じくらいの時間で働くバランスが肝心です。

そのためには原点に立ち返ること。早寝早起き、規則正しい3度の食事、適度な運動って、もう耳にタコでしょうけれど、こういった基本的なことの積み重ねが体年齢に歴然と反映されるのです。

 

シンプルな暮らしで眠りを整えて、脳脊髄液の巡りをよくし、頭の中もすっきりさせていきたいものですね。と、生活習慣を見直しつつ、次回は脳脊髄液の流れを改善して、睡眠中のゴミ出しをスムーズにするためのセルフケアを伝授します。

お楽しみに!

 

 

皆さん、今日も素敵な一日を! 根来秀行さん

 

 

撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 構成・原文/石丸久美子

 

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