急に起きる強い腰痛がぎっくり腰。正式な病名は「急性腰痛症」
まずは、そもそもぎっくり腰とはどういうものなのかを伺いました。
「急に起こる強い腰痛を“ぎっくり腰”と呼びますが、これは通称で、正式な病名は“急性腰痛症”といいます。
ただ、画像診断で原因を特定できれば、病名が追加されたり変わったりするケースもあります。
痛みが起きる原因はさまざまですが、腰の関節や軟骨などに許容以上の力がかかってねんざのような状態になる場合と、腰を支える筋肉や筋(すじ)などの組織が損傷して起きる場合が多いのです。
腰をねじる動きや、物を持ち上げるとき、くしゃみ、洗顔といった何気ない動作が引き金になりやすいですね。
痛みは急に起きますが、日頃の悪い姿勢などによって腰に過剰な負担がかかっていた可能性が高く、すでにギリギリの状態になっていた筋肉が、ちょっとしたきっかけで悲鳴を上げるような状態になった結果がぎっくり腰です」(吉原潔先生)
ぎっくり腰になったら安静に。痛みがやわらいできたら積極的に体を動かす
では、ぎっくり腰になってしまったときは、どうすればよいのでしょうか?
「強い痛みがあって動くのもつらいときは安静にすることが大切です。横向きに寝て体を丸めるなど、腰に負担をかけない楽な姿勢で安静にしましょう。
腰は、冷やしたり温めたりなど温度は気にせず、自然のままでOK。痛みが引いても、早い段階でのマッサージなどは症状を悪化させかねないので控えたほうがいいですね。
ほとんどの場合は1〜3日で症状がやわらぐので、動けるようになったらなるべく普通の生活を心がけるようにしましょう。じっとしているよりも治りが早くなります。
ただし、圧迫骨折を起こしているなど安静を必要とする場合もあるので、強い痛みの場合は、早めに整形外科を受診してください」
ちなみに、よく、ぎっくり腰に一度なるとクセになるといわれますが、これは本当なのでしょうか?
「実際、繰り返しぎっくり腰を起こすことは多いです。痛みが治まってきたからと安心して、まだ万全ではない腰の筋肉や関節に過度な負担をかけたり、腰の不調を招く原因になった生活習慣を続けていたりすると、再発しやすくなります。
腰痛を起こした原因を自分なりに見直して、対策をすることが大切です」
ぎっくり腰を防ぐカギは、ハムストリングスと腰の柔軟性を保つこと
では、ぎっくり腰にならないためや再発を防ぐために、普段からやっておくとよいこととは?
「ハムストリングス(太ももの裏の筋肉)が硬いと骨盤の動きが悪くなり、腰椎に負担がかかりやすくなってぎっくり腰の原因になります。
普段からハムストリングスのストレッチをして、柔軟性を高めておきましょう。また、腰の柔軟性を保つことも大事なので、腰を前後、左右に動かしたり、ひねったりするような体操を取り入れるのも習慣にするといいです」
以下が吉原先生おすすめのエクササイズ。さっそく今日から始めてみて。
ハムストリングスの柔軟性を高める
タオルストレッチ
お尻の筋肉やハムストリングスを伸ばすストレッチ。タオルを使って行うことで、テコの原理が働き、体が硬い人でも楽に伸ばせます。
① あお向けに寝て両手でタオルを持ち、曲げて引き寄せた片方の足の裏の指の付け根あたりに引っかけます。反対側の脚は伸ばして、できるだけ浮かないように注意。
② タオルを引っ張りながら、ゆっくり膝を伸ばします。太ももの裏が伸びたら呼吸を止めずに10秒キープ。次に反対側も同様に行いましょう。左右各3回。最初は無理をせず、少し膝を曲げて行いましょう。慣れてきたら膝を完全に伸ばして股関節が直角になるくらいまで脚を上げると効果がアップ。
腰の柔軟性を高める
くねくね体操
腰を前後左右に動かしたりひねったりする動きで、柔軟性を高める体操。ゆっくりと大きく動かすのがポイントです。痛みが出ない範囲で行うこと。慣れてきたら腰の動きをできるだけ大きくしましょう。
●前後のくねくね
① 椅子に座って、骨盤を立て、脚は腰幅程度に開きます。手は太ももの上に置きましょう。
② おへそを後ろに引いて、骨盤を後ろに倒します。頭や顔は動かさないように固定して行いましょう。
③ 次におへそをできる限り前に突き出すイメージで、骨盤を前に傾けます。この①~③を5往復。
●左右のくねくね
① 前後のくねくねの①の姿勢に戻ります。
② 頭や顔が動かないように固定して、椅子から片方のお尻を1〜2cm浮かせて、同時に同じ側の肩を引き下げます。お尻と肩を元に戻したら、反対側も同様に行います。これを5回ずつ。腰椎が左右交互に弓なりになるようなイメージで腰を動かすのがポイント。お尻と連動して足踏みのように足が動くのは自然なことなのでOK。
●ひねりくねくね
左右のくねくねの①のポーズに戻ったら、今度は、腰を可能な限り大きくひねります。いったん元に戻し、今度は反対側にも大きくひねります。これを5往復。大きくひねったときの角度に左右差がある場合、無理は禁物ですが、なるべく左右均等に大きくひねることを目標にしましょう。
【教えていただいた方】
医学博士。アレックス脊椎クリニック名誉院長。日本医科大学卒業後、同大学整形外科入局。帝京大学医学部附属溝口病院整形外科講師、三軒茶屋第一病院整形外科部長を経て、2017年よりアレックス脊椎クリニック院長。日本整形外科学会専門医、日整会内視鏡下手術・技術認定医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA)公認パーソナルフィットネストレーナー、食生活アドバイザー。運動療法や筋力トレーニングにも精通した医師として、多角的な診療に定評がある。トレーナーとしての信条は「ケガをしないトレーニング方法を指導すること」。50歳を過ぎてから筋トレでメタボ体型を脱し、ベストボディコンテストに出場、受賞歴多数。著書に『ドクターズスクワット』(アスコム)など。
撮影/藤澤由加 ヘア&メイク/佐々木 篤 モデル/SOGYON 取材・文/和田美穂