高濃度乳房(デンスブレスト)という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 脂肪よりも乳腺の占める割合が多い乳房のことで、最新の研究で乳がんにかかりやすいことがわかりました。医療ジャーナリスト増田美加さんが、今後の乳がん検診について3回に分けて、わかりやすくお伝えします。
お話を伺ったのは
増田美加さん
Mika Masuda
1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』(講談社)など多数
戸﨑光宏さん
Mitsuhiro Tozaki
相良病院放射線科部長、昭和大学医学部放射線医学講座客員教授。放射線医師として、乳房を専門に画像診断に携わる
「閉経後、高BMI、高濃度乳房」だと乳がん罹患率が上がる?
『乳癌診療ガイドライン(2019年版)』(日本乳癌学会)には、高濃度乳房の胸をマンモグラフィで見ると乳腺が真っ白に見え、乳がんのしこりも白く写るため、もしもがんがあっても隠れてしまって見つけにくいタイプの乳房であることが記されています。
マンモグラフィで乳房を撮影してがんの有無を見るとき、放射線科の医師は乳房の乳腺濃度を「極めて高濃度、不均一高濃度、乳腺散在、脂肪性」の4つのカテゴリーに分けて判定します(下囲み参照)。
マンモでがんを見つけにくい高濃度乳房とは?
マンモグラフィ検診で撮影した画像。放射線科医が画像を読影する際、4つのカテゴリーに分類することが決められています。右ふたつの「極めて高濃度」「不均一高濃度」が高濃度乳房。高濃度乳房は日本女性の40~80%ではないかと推測されていますが、正しい数はわかっていません
画像、資料提供:戸﨑光宏先生、NPO法人乳がん画像診断ネットワーク
このうち「極めて高濃度」と「不均一高濃度」が高濃度乳房となります。以前から、高濃度乳房は、マンモグラフィ検診では乳がんが見つけにくいことが指摘されてきました。
そんななか、2020年の春、日本女性を対象にした極めて重要な研究が発表されました。高濃度乳房は、乳がんが見つけにくいだけでなく、乳がんにかかりやすいことがわかったのです!
岡山大学西山慶子先生らの多施設共同研究(※1)で、乳がん患者530人とそうでない女性1043人を、極めて高濃度、不均一高濃度、乳腺散在、脂肪性の4つのカテゴリーに分け、どのカテゴリーに乳がんを発症した人が多かったかを調べてみたのです。
その結果、高濃度乳房の人に乳がんリスクが高かったことがわかりました。高濃度乳房のうち、特に「閉経後でBMI値が高い人」に、乳がんリスクがより高いという結果が出ています。
ところが現在、乳がん検診のマンモグラフィの結果で高濃度乳房かどうかを伝える通知は、一部でしか行われていません。自治体などが行う乳がん検診(対策型検診)では、「受診者個人の情報なので知らせることを妨げるものではない」としながらも、関連3学会などによる提言(※2)として、高濃度乳房などの乳房の構成を一律に通知することは、現時点で時期尚早としています。
アメリカでは2017年に米国放射線医学会の提言(※3)として、高濃度乳房の情報をマンモグラフィの結果レポートに含めることを推奨、女性が自分の乳腺濃度について知ることの重要性を明記しています。
「欧米ではデンスブレストについて本人にアナウンスすることが当然ですが、日本はどちらかというと言わないというのが現状。そのギャップには納得がいかないままです」
と言うのは、乳房を専門として画像診断を行う、放射線科医師の戸﨑光宏先生。
高濃度乳房かどうかは、乳がん検診を受診した私たち自身の情報です。自分の体のことを普通に知ることすら、日本では行われていません。高濃度乳房は日本女性にとって乳がんリスクになる、ということがわかった今、検診結果として全員に知らせなくてはならない情報だと思います。
※1 Nishiyama, K., et al. : Influence of breast density on breast cancer risk : A case control study in Japanese women. Breast Cancer 27:277-283, 2020.
※2 日本乳癌検診学会、日本乳癌学会、日本乳がん検診精度管理中央機構:対策型乳がん検診における「高濃度乳房」問題の対応に関する提言。2017年。
※3 ACR Statement on Reporting Breast Density in Mammography Reports and Patient Summaries. ACR, 2017.
つづく。
イラスト/堀川理万子