遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の治療が保険適応になり、遺伝子検査や遺伝カウンセリングが進むことになります。今後の乳がん治療の可能性について医療ジャーナリスト増田美加さんがわかりやすくお伝えします。
お話を伺ったのは
増田美加さん
Mika Masuda
1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』(講談社)など多数
戸﨑光宏さん
Mitsuhiro Tozaki
相良病院放射線科部長、昭和大学医学部放射線医学講座客員教授。放射線医師として、乳房を専門に画像診断に携わる
ハイリスクのHBOCの治療が保険適用に。
高濃度乳房の人の検診も変わる可能性が
遺伝子のBRCA1とBRCA2の変異は、乳がん患者の約3〜5%、卵巣がん患者の約10〜15%に相当し、80歳までに乳がんを発症するリスクは約70%とされています。2020年4月、乳がん、卵巣がんのある人が遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と診断されれば、予防的な乳房や卵巣の切除手術、乳房再建手術が保険診療で可能となりました。これにより、乳がん、卵巣がんの患者さんへの遺伝子検査や遺伝カウンセリングが進むことになります。
予防的な乳房の切除手術で、がんの発症のリスクは約90%減少できると報告されています。今回の保険適用は、乳がんによる死を減らすうえで大きな意義があります。
乳がん発症リスクにかかわる遺伝子は、今はBRCAを中心に調べますが、がんゲノム医療が進んでくると、ほかの遺伝性のがん(腫瘍)を診断される人が増えることも推測されます。高濃度乳房の人も含めて、ハイリスクの人をきちんと評価できれば、乳房MRI、マンモグラフィ、超音波などから一人一人に合った検診を選び、画一的ではない乳がん検診が行えるようになるでしょう。今後は、リスク別の個別化検診へと大きく進む可能性が期待できます。
イラスト/堀川理万子