最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。著書多数
幹細胞は新しい細胞を補充する能力がある!
まずは幹細胞とはどんなものなのか? 私たちの体の中でどんな働きをするのか? 幹細胞に関する基礎知識を知っておきましょう。
美容医療だけでなく、病気の治療も始まっている
「幹細胞を使った再生医療とは、老化や病気、ケガなどで失われた組織や臓器を、幹細胞を補充することで回復・再生させる医療のこと。今、世界中でこの技術が加速度的に進んでいます。
私たちの体の細胞はつねに生まれ変わっています。このとき、体に備わっている幹細胞が、失われた細胞を補充しているのです。しかしこうした細胞も年齢とともに老化していきます。
現在、実用化されているのは、自分の脂肪から採取した幹細胞を培養し、再び点滴などで体に戻す方法です。これにより、弱った細胞が元気を取り戻すのです」(米井嘉一先生)
なんとなくの不調をはじめ、アトピー性皮膚炎、変形性膝関節症、糖尿病などの治療に応用。まだ高額のため、誰もが受けられるものではありませんが、すでに治療が行われています。
幹細胞はもともと体に備わっています
「私たちは精子と卵子が結合した受精卵から始まり、細胞分裂を繰り返し、ある細胞は頭になり、手や足、内臓、骨、筋肉、血液になり、人間の形になって生まれてきます。大人になっても、それぞれの臓器の細胞は生まれ変わって新陳代謝を繰り返しています。幹細胞とは、もともと私たちの体の中にあり、この新しい細胞をつくり出している細胞のことです」(米井嘉一先生)
幹細胞は失われた細胞を補っている
幹細胞にはふたつの特性があると米井嘉一先生。「ひとつは同じ幹細胞をつくること。もうひとつは、別の種類の細胞に分化できることです。体や臓器をつくる細胞には、それぞれ寿命があり、胃腸の表面の細胞は約1日、皮膚は約1カ月で生まれ変わります。細胞が死んだら、また新しい細胞を補充する必要がありますが、幹細胞はこうした失われた細胞を補う働きがあります」
幹細胞にはふたつの特性がある
●自分と同じ幹細胞をつくる
幹細胞は分裂を繰り返すことにより、自分と同じ形と能力を持つ、別の幹細胞をつくり出すことができます
●違う組織の細胞をつくる
必要に応じて、体のさまざまな組織、例えば、軟骨、血管、神経などの細胞に変化することができます。これを分化するといいます
再生医療に使われる幹細胞は3種!
「最初に登場したのは『ES細胞』で、受精卵からつくられます。もうひとつ有名なのは『iPS細胞』ですが、これは皮膚などの体細胞に特定の遺伝子を人工的に入れたものです。このふたつは分化能力は高いのですが、倫理上の問題やがん化する可能性が懸念されています。
その中で今、最も注目されているのが、自分の骨髄や脂肪から採取する『成体幹細胞』です。さまざまな問題点をクリアして、現在、実用化しているのがこのタイプです」
●ES細胞
受精卵からつくられる幹細胞。高い分化能力がありますが、本来は赤ちゃんになる細胞なので、倫理上の問題点が残ります
●iPS細胞
皮膚などの体細胞に特定の遺伝子を人工的に入れた幹細胞。高い分化能力を持ちますが、がん細胞になる可能性などの問題点も
●成体幹細胞
自分の骨髄や脂肪から採取。分化する能力がありますが、万能ではありません。自分の組織なので倫理的な問題はありません
脂肪由来の幹細胞が今の再生医療の主役
成体幹細胞にはいくつかの種類があり、その代表が脂肪由来の幹細胞『間葉系幹細胞』です。「ほかにも骨髄由来のものもありますが、脂肪由来は採取する際の体への負担が少なく、大量に確保でき、臓器を修復する成長因子(再生促進因子)の産生が多いのが特徴です。神経や肝臓の細胞に分化することもわかっていて、今後は心筋や神経、骨の再構築などへの応用が期待されています」
自分の細胞だから安心!
夢の治療ですが、安全性は大丈夫なのでしょうか? 「幹細胞治療を行うためには、厚生労働省が認定した委員会での厳しい審査を受ける必要があり、どのクリニックでもできるわけではありません。
また、おもに自分の脂肪由来の幹細胞を培養して使われます。自分の細胞なので、拒絶反応を起こしにくいのが特徴。がん化のリスクも極めて低く、問題となる副作用や死亡例の報告はありません」
●治療への応用が期待される病気
さまざまな細胞に分化するため、認知症やがんなど、まったく違う疾患の治療にも対応できる可能性があります
イラスト/内藤しなこ 構成・原文/山村浩子