似ているようで違う「まぶたのたるみ」と「眼瞼下垂」
眼瞼下垂(がんけんかすい)は、上まぶたがうまく上がらなくなって目が開きにくく、視野が狭くなってしまう状態。目の不調だけでなく頭痛や肩こり、不眠などの身体症状が現れる人も多くいます。
でも、年を重ねるとまぶたの“たるみ”も気になり出しますよね?
眼瞼下垂なのか? たるみなのか? 区別がつかない…という人も多いことでしょう。
「まぶたのたるみも眼瞼下垂も、40代以降に起こるものは加齢が原因のことが多いもの。まぶたのたるみは加齢に伴って誰にでも起こりうるので、眼瞼下垂に比べて発生頻度は高いですね。
ふたつが明らかに違うのは、トラブルが起きている場所。
眼瞼下垂は、まぶたを持ち上げる筋肉が緩んで、うまく目が開けられなくなっている状態。まぶたの縁に近いところで起きているものです。
一方、まぶたのたるみのほうは、皮膚の緩みそのものです。ほかの皮膚同様、老化や紫外線などのダメージによって皮膚内のコラーゲン、エラスチンなどのハリ成分が減少すると、肌の弾力性がダウン。まぶたの皮膚を支えられず、たるんで下に下がってしまった状態です」(高田尚忠先生)
まぶたのたるみは加齢による皮膚の垂れ下がり(皮膚の緩み)が原因。眼瞼下垂は眼瞼挙筋の機能低下(筋肉の緩み)が原因。はっきり違います。
このふたつは、正式には以下のように呼び分けられています。
■眼瞼皮膚弛緩症(がんけんひふしかんしょう)
こちらはまぶたの筋肉に問題はありません。眼瞼挙筋の機能は保たれているものの、たるんだまぶたの皮膚が目の縁にかぶさり、視野が狭くなっている状態です。
■腱膜性眼瞼下垂(けんまくせいがんけんかすい)
まぶたを持ち上げるために働く挙筋腱膜と、先端部分にある瞼板の結合部分が緩み、まぶたが下がってしまった状態のこと。眼瞼挙筋の衰えが直接の原因です。
「前者のたるみでも、黒目が隠れるほどまぶたが落ちてくることもあり、眼瞼下垂と似たような症状が現れます。医学的(眼形成外科的)には眼瞼下垂と分けて考えられ、『偽眼瞼下垂(ぎがんけんかすい)』とも言われます。
偽眼瞼下垂の原因は、皮膚のたるみ以外にもあります。
例えば、加齢によって眉毛が自然に下がってしまう『眉毛下垂(びもうかすい) 』、まぶたを閉じる筋肉が過剰に緊張して開きにくくなる『眼瞼痙攣(けいれん)』、眼球が陥没したようになる『眼球陥凹(がんきゅうかんおう)』など。
これらのケースは、眼瞼下垂とは原因が異なるので、人によっては眼瞼下垂の手術では改善できないこともあると覚えておきましょう」
まぶたのたるみと眼瞼下垂、見分け方は?
では、まぶたのたるみ(眼瞼皮膚弛緩症)と眼瞼下垂、どうやって見分ければよいのでしょう?
「ポイントは、まぶたの下がり方です。まぶたのたるみは皮膚そのものが重く落ちてくる、つまり“まぶたの縁を超えて”垂れ下がるのが特徴です。目に対して、まぶたの縁の位置が変わるわけではありません。
例えば、まぶたの皮膚を指や細いもの(針金など)で持ち上げてみると、まぶたがグッと上がって縦の幅が狭くなり、縁が高い位置に上がります。これはまぶたのたるみであると判断できますね。
眼瞼下垂のほうは、黒目が隠れるほど“まぶたの縁の位置が下がる”状態を指します。同じようにまぶたの皮膚を持ち上げても、まぶたの縦幅が変わらないのが特徴です。
パッと見、まぶたのたるみは皮膚の余剰感が目立つことで老けた印象になりますが、眼瞼下垂はまぶたが下がって目が開きにくそう、眠そうな印象です。
症状の現れ方では、まぶたのたるみは徐々に進行しますが、眼瞼下垂は急激に現れることもあるのです」
わかりますか? どちらがまぶたのたるみで、どちらが眼瞼下垂?
(答え:上がたるみ、下が眼瞼下垂)
眼瞼下垂かどうかの判断基準としては、以前紹介した『MRD』(第1回参照)があります。自分でもできるので、ぜひ試してみましょう。
「とはいえ、年齢を重ねると、両方が同時に起きているケースが少なくないんです。
その場合、治療はたるんだ皮膚や脂肪を切除したうえで、眼瞼下垂の手術を行うことになります。
眉下切開で余分な部分を切り取る方法や、二重のラインに沿って切除して縫い縮める方法が代表的です」
眼瞼下垂も皮膚のたるみも、重症度には個人差があり、特にふたつが合併していると判断が難しいもの。医療機関で診断してもらい、症状に合った治療法を選択することが何より大事です。
まぶたのたるみ治療でも保険適用になる場合もある!
眼瞼下垂の治療のための手術は、眼科、形成外科、美容外科などで可能です。ただし、まぶたのたるみとの違いや、眼瞼下垂かどうかを正確に調べるためには、専門の機器がそろっている眼科が理想的。ほかの病気の有無も的確に調べてもらえます。
眼科での検査は健康保険が適用になり、手術も1~3割負担の保険内で可能です。
ただ、保険診療が適用されるのは眼瞼下垂の改善を目的とした治療法のみで、美容目的の場合は基本的に自由診療となります。
では、まぶたのたるみにより、目が見えにくくなっている場合はどうでしょう?
「先に説明したように、まぶたのたるみと眼瞼下垂は同時に起きていることが多いものです。
当院の場合、同時に起きているのであればもちろん保険適用。たるみによって視野が狭まり、日常生活に支障があるのであれば、それも保険適用としています。
しかしながら、はっきり分けて考える医師もいます。例えば、眼瞼下垂症は保険適用となっても、たるみによる偽眼瞼下垂症は自由診療とするケースも多いのです。
1回目に保険診療で切開による眼瞼下垂の手術を行い、2回目に自由診療または保険診療(たるみの程度によって異なる)で、たるみに対しての手術(皮膚やたるみの切除、眉下切開など)をする。そのように、初めから2度の手術を計画する場合もあるでしょう。
当院だとほとんどの場合、保険適用で行っていますが、それも保険適用の手術でありながらも、『TKD切開法』という独自の工夫をした手術です。これは皮膚切除を加えた眼瞼下垂手術。皮膚を取りすぎるリスクを考え、皮膚の余剰分を少量だけ切除しつつ、眼瞼挙筋や挙筋腱膜の異常も治すことができます。
自由診療であれば、皮膚の切除する量をまぶたの状態に合わせて増やしたり、必要であれば眼窩脂肪などの脂肪も切除し、まぶたのたるみや重みに対して、より配慮した手術を行うことができます
保険診療というのは、損なわれた機能の回復、病気によって引き起こされた直接的な症状を改善する目的で適用されるもの。
つまり、まぶたの重み、たるんだ皮膚のかぶさりによって視野が狭くなっているのを改善する目的の手術であれば、保険適用となる可能性が高いのです。
逆に、まぶたの重み、皮膚のかぶさりが軽度で視野の狭さが認められなければ、自由診療となってしまいます。
保険診療をうたっているのに、実際にカウンセリングを受けてみたら、明確な基準や根拠もなく高額な自由診療をすすめられたという話はよくあります。
眼瞼下垂の治療は大部分のケースが保険適用。たるみを治したい、シワを取りたいという審美的な要素を治す手術では、基本的に保険は適用されず、自由診療での手術になります。
眼瞼下垂の手術料金は、一般的な病気やけがの治療と同じく、全国全施設一律に定められています。保険診療3割負担であれば、片眼につき約18,000〜55,000円(手術方法により異なる)。
自由診療の場合、料金は医療機関によってまちまちです。よりこだわった内容の手術を受けられますが、約200,000〜700,000円と高額になることが多いようです。
手術・治療内容や費用の根拠などをしっかり把握して検討しましょう。
【教えていただいた方】
高田眼科(静岡県浜松市)院長、フラミンゴ眼瞼・美容クリニック(愛知県名古屋市)主宰。眼科医と形成外科医の知識、豊富な眼瞼手術の術者としての経験をもとにファシアリリース法を考案。保険適用手術にこだわり、手がける眼瞼下垂手術は年間2000件以上。全国から患者が来院。メールでの眼瞼下垂相談も可能。
イラスト・写真/Shutterstock 取材・文・画像制作/蓮見則子