日本人は塩分過多。隠れ塩分に要注意!
私たちの体は、毎日の食事からとる栄養でつくられています。もちろん心臓や血管も例外ではありません。
では、心臓や血管の健康を守るために特に気をつけるべきことは…?
「まず注意していただきたいのは塩分です。多くの人が高血圧の原因として塩分を思い浮かべるでしょう。塩分は血圧を上げる確実な要因のひとつです。年齢とともに血圧が高くなる人が増えてきます。心不全の予備軍にならないために、塩分のとりすぎには十分に注意してください」(大島一太先生)
塩分をとりすぎると血圧が上がるメカニズム
「食塩の主成分であるナトリウムは、体内の水分バランスを調整しています。ナトリウムをとりすぎると体内の水分が過剰に増え、血圧が上がる原因となります。高血圧になると、全身の血管や臓器に負担がかかり、特に心臓や腎臓に大きなダメージを与えます。
腎臓の機能が低下すると、塩分や水分をうまく排泄できなくなり、さらに血圧が上がるという悪循環に陥ります。また食塩のとりすぎとがん、特に胃がんとの関連性も指摘されています。食塩の摂取量が増えるほど、胃がんのリスクが高まります」
とはいえ、食塩(塩化ナトリウム)は人間の生命維持には不可欠なもの。大切なのは、その量とほかの栄養素や成分とのバランスです。
「1日の食塩摂取量の基準は、日本人の成人男性で7.5g未満、女性で6.5g未満です。血圧をしっかり下げ、腎臓の機能を保つためには、男女ともに6.0g未満を目指すことが推奨されています」
塩分は人間に必要な成分ですが、成人が1日に必要な食塩量はわずか1.5g程度。しかし、私たち日本人は1日に10g以上の塩分を摂取しているのが現状です。
塩小さじ1杯が塩分約6g。男性の場合は小さじ山盛り1杯、女性は小さじ1より少し多い量が基準となります。これだけを見ると、自分はそんなに多くとっていない…と思うかもしれません。しかし、実際には外食や加工食品に含まれる塩分も意外と多く、知らず知らずのうちに塩分過多になっているのです。
例えば、塩鮭(80g)に含まれる塩分量は約6.5g、天ぷらそばは約5g、味噌ラーメンは約6g、かつ丼は約4gなど。これだけでも1日の塩分量に相当するくらいです。これらの料理は、加工過程やつゆにも多くの塩分が使われています。
「ナトリウムは食塩だけでなく、旨味成分として使われるグルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウム、麺類に使われるかん水、パンや製菓に使われるベーキングパウダーなど、さまざまな食品にナトリウム化合物として含まれています。このような隠れ塩分にも注意が必要です」
とはいえ、長年食べ慣れた味から急に塩気を減らすと、物足りなく感じてしまいます。
「そのような場合は、だしをしっかり利かせることや、唐辛子やにんにくなどの香辛料、レモンやゆずなどの柑橘類、酢などで酸味を上手に取り入れるとよいでしょう。
また、塩分だけでなく、甘味も少し控えめにして全体を薄味にすると、塩分を減らした物足りなさを感じにくくなります。最近は減塩のしょうゆやソース、たれ、ドレッシングなども販売されているので、これらも活用してください」
塩分はカリウムとのバランスが大切
塩分を減らすことに加えて、ほかに注意すべきことはあるのでしょうか?
「個人差はありますが、ナトリウムの過剰摂取は確実に血圧を上昇させます。ここで注目していただきたいのがカリウムです。カリウムはナトリウムとともに細胞の浸透圧を調整し、心臓や神経、筋肉の働きをサポートしています。特に、余分なナトリウムを尿や汗として排出することで、塩分の過剰摂取を調整し、血圧を下げる効果があります。
カリウムは、心臓や血管の健康を維持するために重要な働きをしています。WHOのガイドラインでも高血圧や心血管疾患、脳卒中のリスクを減らすために、食事から積極的にカリウムを摂取することが推奨されています
通常、腎機能が正常でサプリメントなどを服用していなければ、食事からの摂取でカリウムが過剰になることはありません。しかし、腎機能が低下している人や、カリウムの値を保持する薬、一部の高血圧の薬を服用している人は、カリウムが過剰になってしまうことがあるため、まずは主治医に相談してください」
では、カリウムが多い食材にはどんなものがあるのでしょうか?
「例えば、ほうれん草、ブロッコリー、レタスなどの野菜やバナナ、柿、アボカドなどの果物、昆布、わかめ、ひじきといった海藻類があります。また、エビやカニ類、大豆、いんげん豆などの豆類、そして緑茶やコーヒーにもカリウムが含まれています。これらの食材を積極的に取り入れることで、カリウムの摂取量を増やすことができます」
カリウムは水溶性なので、煮たりゆでたりすると水に溶け出して減少してしまいます。カリウムを多くとりたいときは、生野菜のサラダや果物からとると効率的です。
「例えば、味噌汁など塩分が気になる料理では、カリウムを多く含む野菜や海藻などの具をたっぷり入れるとよいでしょう。これにより、塩分の多い汁の量を減らすことができ、さらにカリウム効果も期待できます」
健康な心臓のために! 油と食物繊維がポイント
心不全の予備軍として、脂質異常症の人も注意が必要です。女性は更年期世代から数値が悪化しやすく、動脈硬化の進行につながります。このため、早い段階からしっかりとコントロールすることが大切です。
「それには脂肪酸のとり方が鍵になります。脂肪酸には、動物性の脂に多く含まれる飽和脂肪酸と、魚や植物性の油に含まれる不飽和脂肪酸があります。簡単な違いは、飽和脂肪酸は常温で固まりやすく、不飽和脂肪酸は固まりません。
飽和脂肪酸は肉や乳製品(牛乳、バター、ラード、生クリーム)など動物性脂肪や、加工食品によく使われるパーム油に多く含まれます。
一方、不飽和脂肪酸は体内で生成できないため、食事から摂取する必要があります。これを必須脂肪酸と呼びます。不飽和脂肪酸は一価と多価に分かれ、どちらも悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やす効果があります。一価不飽和脂肪酸の代表はオリーブオイルです。
多価不飽和脂肪酸にはオメガ6系とオメガ3系があります。オメガ6系は大豆油、ごま油、コーン油、サラダ油、卵黄などに含まれます。必須脂肪酸として適切な摂取が必要ですが、とりすぎると心血管系に悪影響を与えます。普段の生活でとりやすく、過剰摂取に注意が必要です。
一方、積極的に摂取したいのがオメガ3系です。青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサへキサエン酸)、亜麻仁油、えごま油などがあり、これらはおもに中性脂肪などの脂質を低下させ、血液をサラサラにして動脈硬化を予防します」
理想的なバランスは、「オメガ6系」:「オメガ3系」=2:1とされています。このバランスがくずれ、オメガ6系が多すぎると、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などのリスクが増加します。
「オメガ3系の中でも、特に心臓や血管の健康に重要なのがEPAです。EPAはイワシ、サバ、アジなどの魚に豊富に含まれ、生で食べるとより効率的に摂取できます。加熱する場合は、焼き魚には表面に小麦粉をまぶして焼いたり、煮魚は水分少なめの薄味にして煮汁ごと食べるように工夫すると、加熱による損失を減らせます。また、サバ缶は魚の栄養を丸ごと摂取できる優れた食品です。
1日3食のうち2食に魚料理を取り入れるのがおすすめです」
もうひとつ心臓力を高める栄養素に食物繊維があります。食物繊維は動脈硬化の原因となる悪玉コレステロールを吸着して排泄したり、糖質の吸収を穏やかにして、心臓や血管を健康に保ち、心不全の予防に役立ちます。
「食物繊維はキャベツや白菜などの葉野菜、緑黄色野菜のほか、豆類や海藻類、りんごやバナナなどの果物にも含まれています。特ににんじんやかぼちゃ、ブロッコリーにはβ-カロテンが豊富に含まれ、これらの野菜は抗酸化作用を持っています。抗酸化作用は細胞の酸化を防ぎ、動脈硬化やがんの予防に効果があります。また、りんごなどの果物は皮付きで食べると、さらに多くの食物繊維を摂取することができます」
野菜と果物の量の目安は「1日5皿=5サービング」!
これらの野菜や果物の1日の推奨摂取量は野菜350g以上、果物200g程度です。
「この量の目安になるのが『サービング』という考えです。大皿に盛られた野菜が2サービング、小鉢が1サービングと数え、1日に5サービング食べるとだいたい350gになります。
果物の場合、100gはバナナ1本、りんご半分、梨半分、みかん1個に相当し、1日200gを目安にとるようにしてください」
野菜も果物も1日量で考えると、実践しやすくなります。こうした日々の積み重ねが、心臓力を高める手助けになるのです。
【教えていただいた方】
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子