薬とアルコールの有害性は未知数にある!
持病がある人は薬を毎日のように服用していることでしょう。そんな人がお酒を飲む機会があった場合は? もしくは飲酒習慣のある人が、突然、服薬することになった場合は? そんな薬とお酒(アルコール)の関係を知っておくことは、薬と上手に付き合うためには大切です。
※薬と薬の飲み合わせ、食べ合わせに関しては第7回参照
「薬とお酒(アルコール)を同時摂取したときの弊害には2種類あります。
ひとつは薬の効果が増幅してしまうことです。
アルコールを少量摂取すると、脳の中枢神経の抑制系にブレーキがかかるので、軽い興奮状態になります。ほろ酔いで幸せな気分になり、いつもよりおしゃべりになるのがその状態です。
しかし、さらに飲酒が進むと、中枢神経のさまざまな部分にブレーキがかかるので、頭がボーッとしてきて、足元がおぼつかなくなります。中には怒りっぽくなったり、泣き出してしまったりと感情のコントロールが利かなくなることも。
薬の中には、この中枢神経に作用するものがあります。その代表がベンゾジアゼピン系の睡眠薬、抗不安薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン系の風邪薬や花粉症の薬などです。
これらとアルコールを同時に摂取すると、中枢神経の抑制作用が増強します。そのため、眠気が増し、寝る前や途中で起きたときのことを忘れたり、運動機能が低下して転倒のリスクが高まります。
病気によっては、薬を飲まないと病状が悪化して危険なことがあります。そんな場合は飲酒を控えてください。私が患者さんとお話しするときは『絶対にやめてください』とお伝えしています。
また、薬とアルコールを同時に摂取しなくても、体内にアルコールが残っている可能性がある1~2日間は、これらの薬は飲まないことをおすすめします。
特に、自動車の運転、機械作業などを行う場合は、体内の残ったアルコールと薬が相互作用を起こし、薬効が強く出て眠気や集中力を欠く状態を起こす可能性があり、危険です。
病状や薬の種類によって対応が変わってくるので、必ず主治医に相談してください」(鈴木素邦さん)
もうひとつの弊害は、逆に薬の作用が減ってしまうことがあるそう。確かに、「吞兵衛は薬の効きが悪くなる」と聞いたことがあります。それはどうしてなのでしょうか?
「簡単に説明すると、薬もアルコールも肝臓で分解されます。ですから、これらを同時に摂取すると、肝臓で分解酵素を取り合うことになるからです。
肝臓でアルコールを分解するためには、シトクロムP450(CYP)という酵素が関与しています。この酵素は一部の薬の分解にもかかわっているため、アルコールを飲んでいると薬の効きに影響します。
また、このCYPは飲酒を続けていると増えて、体のアルコール分解の力が高くなります。飲酒を重ねるとお酒に強くなるのはそのためです。
そのため、飲酒の習慣のある人は、お酒を飲まない人よりもCYPの量が多いので、肝臓での薬の分解が促進されてしまいます。すると、患部に届く薬の量が減ってしまい、結果的に薬の効きが悪くなります。
実際に患部に届く薬の量で考える必要があるのです」
タバコも薬の効きに影響する!
では、喫煙習慣のある人はどうなのでしょうか?
「タバコも同様です。喫煙の肺へのダメージはよく知られていますが、実は肝臓にも大きな負担がかかっています。それはタバコに含まれるニコチンやタールなどの有害成分は、肝臓の酵素CYPによって分解されているからです。
喫煙によってもCYPが増えるので、飲酒と同様に薬が効きにくくなることがわかっています。
例えば、喘息の薬のテオフィリン、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェン、降圧薬のプロプラノロール、精神安定剤のジアゼパムは、肝臓での分解が促進されて、効きめが弱くなります。
お酒を飲みながらの喫煙は、さらに肝臓に負担がかかり、薬の効きが悪くなるので注意が必要です。
また、手術時などの麻酔も飲酒や喫煙習慣がある人は効きが悪い傾向があります。歯科医では神経の治療や抜歯などで麻酔が使われますが、この前後も飲酒と喫煙を避けたほうがいいでしょう。
飲酒は血流を促すので、傷口からの出血や痛みが増す可能性があり、喫煙はタバコの有害物質が傷口から混入することがあります。痛み止めを飲んでいる場合には、その効き目が弱まることも考えられます。
薬と飲酒や喫煙との関係の有害性は、まだわかっていないことが多く、未知数といえます。薬を飲むときや麻酔を受けるときは、飲酒や喫煙を控えることをおすすめします」
【教えていただいた方】
イラスト/いいあい 取材・文/山村浩子