補聴器と集音器はまったく別物!
最近、聞き返したり、聞き漏らしたり、聞き間違いをすることが増えた、テレビの音量が大きいと指摘されたことはありませんか? 年齢とともに老眼が進むように、耳も少しずつ加齢の影響で聞こえにくくなります。
とはいえ、まだ会話にそれほど支障がないので、補聴器までは必要ないと思っているかもしれません。しかし、40代でも50代でも軽度や中等度の難聴になる人はいますし、親の難聴が進んで会話に苦労するという声もよく聞きます。そんな自分や親世代のため、さらに将来に備えて補聴器の基礎知識を持っているととても役に立ちます。
「さまざまな研究が進むなかで、難聴は認知症の発症リスクを高めることがわかっています。例えば、軽度難聴なら2倍、中等度難聴では3倍、高度難聴では最大5倍以上に高まるというのです。
以前には補聴器はあまり早くから使わないほうがいいという意見もありましたが、今は耳の機能が衰えてきたら、できるだけ早いタイミングで使用することが推奨されています」(石井正則先生)
親のためにと思い、「補聴器だと思って集音器を購入してプレゼントしたが、その不快な聞こえ方に閉口し、まったく使ってもらえなかった」といった体験談も耳にします。
「まず補聴器と集音器はまったく別物であることを知ってください。特に格安の集音器は全体の音のボリュームを上げ下げするだけのものです。しかし、私たちが音を聞いているメカニズムはもっと複雑です。
例えば、『カクテルパーティ効果』という言葉を聞いたことはありませんか? パーティ会場に入ると全体がザワザワ、ガヤガヤして雑音に聞こえます。そこで話されている内容は聞き取れません。しかし、話したい相手と会話を始めたり、気になる話題に注意を向けると、まわりの雑音が消えて、内容を聞き取れるようになります。
それは、脳がまず全体の音を雑音化して全体を把握しようとします。そこから聞きたい音だけに集中して、そこだけ音を大きくすることで聞き取っているのです。こうした脳の機能を『カクテルパーティ効果』と呼んでいます。
私たちのまわりにはさまざまな音があふれています。ラジオから流れてくる音や音楽もあれば、外では自動車の走行音や歩行者の靴の音、静かな場所ではエアコンや冷蔵庫のかすかな音、郊外に行けば鳥の声や川のせせらぎなど。それらすべてを同じように受け止めて聞いていたら大変なので、無意識のうちに、その中から聞きたい音だけを選んで聞いているのです。
『聞こえる』ことと、『聞き取る』ことは違います。こうした脳の機能を踏まえたうえで補聴器を選び、付き合っていく必要があります。単にまわりの音を大きくしたり小さくしたりするだけの集音器では、不快でしかありません」
補聴器は自分に合った「調整」が肝心!
では、補聴器はどのように選んだらいいのでしょうか?
「補聴器を購入するときは、耳鼻咽喉科の医師に相談のうえ、補聴器販売の認定を受けている店を選ぶことが重要です。
難聴といっても、どの高さの音が聞こえにくいのか、どんな環境で使用するのかなど、人によって症状や状況は異なります。補聴器をつけて快適に聞くためには、その人に適したものを選び、さらに調整する必要があるのです。
重要なのは、店頭で何度も調整(フィッティング)して、さらに2週間くらい貸し出してもらい、生活の中で着用して聞こえ具合を試します。実際に使用してみると『肝心の会話が聞こえにくい』『まわりの雑音が気になる』などの不具合がわかってきます。それは人によって違うので、個々に合わせて調整していきます。それには最低でも2週間、あるいはそれ以上かかります。
さらに、耳から直に聞こえてくる音と、補聴器を通して聞こえる音は異なるため、脳がそれに慣れるのに3カ月から半年、場合によっては1年ぐらいかかることがあります。買ったらそれで終わりではなく、定期的な調整が必要なのです。補聴器は購入前も購入後も調整が命なのです」
こうしたことに、きちんと対応してくれるお店やスタッフから購入することが大切なのだと石井先生。
【補聴器購入に重要なこと】
●一定期間の貸し出しシステムがある
●きめ細かな音調整をしてくれる
●アフターケアが充実している
そのなかでも、約70年の歴史を持つ「補聴器専門店ブルーム」は、世界の2大ブランドであるシグニアとワイデックスを扱っている老舗。日本全国に106店舗あり、2週間の貸し出しもあります。最近の新機種では、着用しているのが目立たないものも多く、聞こえ具合も格段にアップしているそう。
騒音下でも聞き取りやすい、女性に人気のモデル
マイクの角度や配置の変更により、風の音や補聴器に触れたときのノイズ、まわりの雑音を低減。騒音下でも会話が聞き取りやすい。5色展開で、特に新色のローズゴールドが女性に人気。Widex:SmartRIC 110 片耳¥243,000~、両耳¥453,000~(補聴器は非課税・専用充電器1台を含む)/補聴器専門店ブルーム
世界最小クラスのコンパクトサイズで目立たない
軽くて快適なつけ心地。超小型なので装着が目立たないのがうれしい。騒がしい環境でも会話が聞き取りやすく、聞き逃しがちな話し出しや子音も正確に再現。Signia Silk Charge&Go IX 1IX 片耳¥209,000~、両耳¥374,000~(補聴器は非課税・専用充電器1台を含む)/補聴器専門店ブルーム
補助金が出る自治体も!
「補聴器は片耳1台単位で販売していますが、聞こえにくいのが片耳だけだとしても、両耳つけるのが理想です。そのほうが音の方向や距離感などがつかみやすいからです」
そこで問題になるのは、その価格です。
「確かに、1台の価格の相場が20万~40万円以上と高額で、保険もきかないので躊躇してしまうかもしれません。しかし、症状が該当して、補聴器相談医の資格を持つ医師の作成した補聴器適用の診療情報提供書と領収書があれば、医療費控除が受けられます。自治体によっては助成金が出るところもあるので、各自治体のホームページを確認してみてください」
格安の値段につられたり、販売員の売る圧力に押し切られたりして、自分に合わないものを買うことだけは避けたいもの。難聴は生活の質にかかわってくる大切な問題です。助成金制度などを上手に活用して、早い時期から自分に合う補聴器を使うことをおすすめします。
[教えていただいた方】
写真/補聴器専門店ブルーム 取材・文/山村浩子