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【ドクター直伝】痔にならないための「排便習慣」のすすめ

裂肛や痔核が再発しやすい人は、自分でも気づかないうちに肛門に負担がかかっていることが多いもの。女性のための肛門科専門外来のエキスパート、消化器外科医の高橋知子先生に、痔にならないためのアドバイスをいただきました。排便時の姿勢や腸の動きをよくする呼吸法など、ぜひ実践しましょう!

日頃の排便習慣をチェックしよう

 

裂肛や痔核などの痔にならないためには排便習慣を整えることが欠かせません。一度でも痔の症状を体験した人は、再発予防としてもぜひ実践したいところ。

 

「排便回数には個人差もあり、1週間に3回出ているのなら正常な範囲です。毎日排便がなくても、不快感がなければ便秘ではありません」と、高橋先生。むしろ重要なのは、肛門に負担をかけない排便を心がけること。

 

「例えば長時間トイレにこもり、便意がないまま強く腹圧をかけていきんでしまうと、肛門部の静脈叢のうっ血や、肛門粘膜への負担が増してしまいます。まずは、便意を感じたタイミングを逃さずにトイレに行くことが肝心。しっかりと便意を感じてから便座に座ると、繰り返しいきまなくても、するりと排便できますよ。そして、便座に座る時間を5分以内にとどめることも大切です」

 

<排便習慣を整えるためのポイント>

・1週間に3回お通じがあれば、毎日なくてもOK

・しっかりと便意を感じてから便座に座る

・排便時間は5分以内に

・排便・排尿の際は、腹圧をかけて出し切ろうとしない

 

姿勢に注意!猫背は肛門に負担がかかりやすいって、知ってる?

 

さらに、肛門を守るために意識したいのが、日頃の何気ない姿勢です。座りっぱなしなど、長時間同じ姿勢で過ごすのはよくないといわれますが、なかでも避けたいのが“背中を丸めた姿勢”。猫背の姿勢は腹圧が強まって骨盤底筋を押し下げ、肛門を圧迫しやすいからです。

猫背はNG

 

「そうでなくても更年期世代は骨盤底筋が緩みやすいお年頃。腹圧が高まると、肛門部血管のうっ血を招いて痔核が大きくなったり、肛門の粘膜が切れやすくなったり、痔の再発リスクが高まります。排便時の腹圧上昇を防ぐためにも、猫背はNG。背すじを伸ばしたよい姿勢を意識しましょう」

 

その際、よい姿勢の目安となるのが、“みぞおちから恥骨までの距離”をできるだけ長く保つこと。おへその下に手を当てて、“みぞおちから恥骨までの距離”を長く保つように意識すると、背すじが伸びて姿勢がよくなります。

 

「肛門が圧迫されて、痔核のうっ血を招くことがないようにするためにも、日頃から背すじを伸ばしたよい姿勢を意識しましょう」

排便時は背中を真っすぐ。「ハ――」と言いながら息を吐く

 

排便時の姿勢も重要です。従来は、背中を丸めた「考える人」のポーズがすすめられてきましたが、背中を丸めた姿勢で排便すると、腹圧が過剰に強まってしまいがち。すると骨盤底筋を押し下げ肛門を圧迫するため、裂肛や痔核を悪化させやすいのです。つまり、排便時も背中を真っすぐにした姿勢を保つことがポイント。

 

「おへその下に手を当てて、みぞおちから恥骨までの距離をできるだけ長く保つように意識しながら、背すじを伸ばしてみましょう。次に、アイウエオの「イ」の口で口角を上げるようにして、「ハーー」と言いながら、ゆっくりと息を吐いてみてください。お腹がへこんで、手が内側に引き込まれるような感覚が体感できます。背筋を伸ばした姿勢を保ちながら、スムーズな排便を誘導できますよ」

 

試しに口をすぼめて「フーー」と言いながら息を吐くと、腹圧が強まって、お腹の内側から手が押される感じがします。 でも、「ハーー」と言いながら細く長く息を吐くと、手がお腹の内側に引き込まれるような感覚が得られるのです。

 

「『ハーー』と息を吐くと、腹部のインナーマッスルが収縮し、肛門を含めた骨盤臓器や骨盤底筋がともに引き上がってきてお腹がへこみ、するりと肛門から便を出すことができます。これぞ、肛門や骨盤底筋に優しい排便の仕方です。痔の再発予防に役立ちますよ」

腸のぜん動をよくするために、就寝前の腹式呼吸を日課にしよう

 

便秘予防には「1日3食きちんと食べる」「食物繊維をとる」など、まずは食事内容の見直しが重要ですが、それと併せて、腹式呼吸も効果的なのを知っていますか? 便通がよくなる呼吸法を高橋先生に教えていただきました。

 

「まずはあお向けに寝て両膝を立て、背中をぺたんと床にくっつけましょう。その状態で、口角を上げた「イ」の口をして、「ハーー」とゆっくりと息を吐きます。すると、お腹が少しへこんで、横隔膜が上がっていくのと一緒に、腸管も上がっていくのがわかります。肩が痛くなければ、息を吐くときは両手を頭上に伸ばして行ってみましょう」

痔対策 ドローイン

 

その際、左右の腕で自分の顔を挟むようにして、両手を頭上に気持ちよく伸ばしながら「ハーー」と息を吐きます。手のひらは床から浮いている感じでOK。あお向けになると、背骨のカーブで腰の下に隙間ができるので、おへそを床にくっつけるようなイメージで行うと、腹式呼吸の効果がアップします。息を吐き終わったら、両方の手のひらを頭の上に置いて休んでください。

 

「あお向けの態勢で腹式呼吸を行うと、椅子に座って行うよりも、自分のお腹が膨らんだり、へこんだりするのを意識しやすくなります。肛門をキュッと締める運動をしても、鍛えることができるのはほんの一部の筋肉だけです。でも、腹式呼吸をすると、横隔膜とともに骨盤底筋が持ち上がり、骨盤底筋全体の筋力アップに役立ちます」

 

この腹式呼吸を一度にゆっくり3回、これを就寝前だけでなく、一日の隙間時間を見つけて3~5回くらい行うと、便通改善と骨盤底筋の強化が期待できます。便秘と痔(裂肛・痔核)の再発を予防するためにも、まずは就寝前の日課にしませんか。

 

<骨盤底筋と肛門に負担をかけないために、こんなことにも注意>

・片方の肩に重い荷物の入ったショルダーバッグをかけない

・腹筋運動(クランチ:主に腹直筋を収縮させる)は骨盤底を押し下げてしまうので、やりすぎないように注意

・無理して、自分の筋力に見合わないウエイトトレーニングはしない

・肛門周囲の皮膚を傷つけないために、ゴシゴシと洗いすぎない

 

 

 

【教えていただいた方】

高橋知子
高橋知子さん
亀田総合病院消化器外科部長
公式サイトを見る

東京女子医科大学卒業。亀田京橋クリニックにて、全国でも珍しい直陽と肛門の疾患に特化した「女性のためのこう門・おつうじ外来」を担当。専門分野は肛門疾患、排便機能障害、分娩後骨盤底障害。女性たちの便秘や痔、便失禁、直腸脱などのトラブルに対して、専門的な治療とともに生活指導を行っている。

 

イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵

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