発達障害から二次的にうつ病になることも!
例えばがんであれば、それがステージⅡ期であるなど決まった診断基準があります。しかし、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)といった発達障害には、その明確な基準がありません。たとえ症状が軽くても、生活をするうえで本人やまわりの人がとても困っているのなら、それは対処する必要があるのです。
※詳しくは第1回参照。
「こうした発達障害は時に、うつ病や愛着障害、強迫症といった、ほかの精神疾患と混同されることもあり、中には実際に併発しているケースもあります。
うつ病と発達障害とは密接な関係が見られます。うつ病はやる気や喜びが極端に落ち込み、集中力が続かない、表情が乏しいなどの症状があり、食欲や睡眠にも影響のある病気です。その引き金になるのが強いストレスといわれています。
発達障害を持っている人はストレスを受けやすい傾向があります。努力しているのに、まわりから叱られることが多く、精神をすり減らしてしまいがちです。そうしたストレスでうつ病を発症する人もいます。
また、うつ病になると何もやる気が起きずに、ASDの人に見られるような引きこもり状態になる人もいます。その違いはわかりづらく、両方を併せ持っているケースもあります。
双極性障害(そううつ病)はそう状態とうつ状態とが周期的に現れる病気です。そう状態のときは、エネルギッシュで落ち着きがなく、活動的でADHDの「多動・衝動型」に似た症状に。うつ状態のときは何もする気が起こらなくなります」(司馬理英子先生)
発達障害は生まれもった脳の特性です
発達障害の症状と似ている精神疾患はほかにもあるそう。
「愛着障害は、乳児幼児期に虐待を受けたり、十分な愛情を受けられずに育った場合に見られる障害です。落ち着きがなかったり、衝動的であったり、人と程よい距離がとれません。
乳児院で育った子どもにこうした症状が多く見られますが、里子になるなど十分な愛情を受けると治ることがわかっています。発達障害は生まれつきの脳の特性ですが、愛着障害は成長の過程で起こるものです。
強迫症は異常に手を洗ったり、戸締りを何度も確認するけれど安心できないなど、何かにとらわれてしまう病気です。強迫行動が激しいと、日常生活に支障が出ることがあります。ASDなどの発達障害があると、強迫症状を強めることがあります。
不安症は異常に強い不安の感情を抱く病気です。イライラしたり、落ち着きがなく、判断力の低下、不快感や疲労感が現れることもあります。ASDの人は特に不安感が強いことがあります。
ボーダーラインパーソナリティ症の人は見捨てられる不安が強く、感情や思考のコントロールが苦手です。そのため衝動的な行動をとったり、気分がコロコロ変わるのが特徴です。こうした対人関係が発達障害の人と似て見えることがあります。
統合失調スペクトラム症は考えや気持ちがまとまらなくなる精神疾患です。幻覚や妄想を見たり、支離滅裂な発言をしたり、奇妙な行動をすることがあります。片づけられない症状が極端に出ている場合は、統合失調スペクトラム症の可能性があります。
発達障害と精神疾患は合併していることも多いので、その違いを見分けることが困難な場合もあります」
なかなか診断が難しい発達障害と精神疾患ですが、不安を感じる場合は、一度、精神科か心療内科を受診することをおすすめします。
【教えていただいた方】
司馬クリニック院長。岡山大学医学部・同大学院卒業後、1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てながら、ADHDについて研鑽を深め、1997年に帰国後、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニック「司馬クリニック」を開院。著書は『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)をはじめ、『わたし、ADHDガール。恋と仕事で困ってます』(東洋館出版社)、近著『もしかして発達障害?「うまくいかない」がラクになる』(主婦の友社)など、多数。
イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子