待ち合わせに遅れたり、日時や場所を間違えることは誰にでもあります。特に、今はスマホがあるので、待ち合わせに遅れるときは「ちょっと遅れる」とか、「待ち合わせ場所どこだっけ?」といったメッセージを簡単に相手に送ることができて、以前より待ち合わせの約束が気楽になっています。
「それでも通常は、遅れることを重要な落ち度だと思い、会ったときに丁寧に謝ったり、次回からは遅れないようにするものです。しかし、ADHDの人の場合は、遅刻や日時の間違いなどが極端に多いのが特徴です。そのあたりについて考察してみます」(司馬理英子先生)
※大人の発達障害についての基礎知識は第1回参照。
ADHD(注意欠如多動症)R子さんの場合
待ち合わせに遅れても、メールしておけば大丈夫?
R子さん(45歳)は会社員。子どもはなく、夫との二人暮らしです。仕事と趣味で毎日楽しくやっています。
ところが、最大の欠点は遅刻常習者であること。仕事では出社や会議に微妙に遅れる、プライベートでも夫や友人との約束でオンタイムに行ったためしがありません。そのつど、スマホメールで遅れることを伝えているので、それを重大なミスとは思っていません。
よくあるのが、オフィスでの仕事から得意先に出るとき、時間配分の見積もりが甘いので、いつもギリギリに行動します。そのため、約束の時間に間に合わないと思いタクシーに飛び乗るも渋滞に巻き込まれて、結局、遅刻することに。約束の時間を間違っていて、遅刻することもあります。
長期のスケジュール管理が苦手
仕事で2カ月後に完成させるプロジェクトがありました。まだ時間的なゆとりがあると思い、ほかの仕事を優先しているうちにすっかり忘れ、日時だけが経過。直前になりやっとそれに気づき着手したのですが、どうにも間に合わず納期に遅れました。
時間にルーズで、物事を計画的にコツコツと積み重ねることが苦手です。そのため、周りに迷惑をかけることがしばしば。この傾向は私生活でもあるので、いつも夫に叱られています。それでも、この癖はなかなか直りません。
【ADHDの特徴】 ★がR子さんに強く見られる特徴で、〇は多動・衝動型と不注意型共通。
★待ち合わせの時間に毎回のように遅れる
★気が散りやすくて、忘れっぽい
★行動がギリギリになる
★自分が面白いと思うことややりたいことを優先して、面倒なことは後回しにする
★せっかちで早とちりが多い
〇単純作業、ルーティン管理が苦手
〇整理整頓が苦手
〇落ち着きがなく、じっとしているのが苦手
〇段取りよく物事を進められない
〇言うことがコロコロ変わる
「ADHDの人が待ち合わせの時間に遅れる理由は3つあります。
1・遅刻することを軽くみている。2・時間の見積もりが甘く、準備に取りかかるのが遅かったり、事前に行先を調べていない。3・何かあったら、というアクシデントを予測できず、ゆとりのある時間設定ができない。
特に、スマホで遅れる旨を伝えていれば、遅刻は帳消しになると思っているようです。遅刻への罪悪感が薄いのです。
そして、常にベストシナリオで考えがちで、電車が遅れたら? 途中の道が混んで渋滞に巻き込まれたら? といった、起こりうるアクシデントを想像できません。そのため、ひとたび予期せぬことが起こると、約束に間に合わなくなるのです。
時間的な感覚が特殊で、長期のスケジュール管理が苦手です。通常は長期なりに予定を立てて、それに沿ってほかの仕事とバランスよく進めるのですが、それができません」
【周りのサポート】
「とにかくリマインドが必須です。すぐに忘れてしまうので、前日か当日にメール(連絡)します。そのとき、本人に思い出してもらうことで記憶するルートができるので、『今日(明日)の約束は何時でしょうか?』など、答えを促すようにします。
仕事依頼も、2カ月で8つのことを一度に発注するよりも、1週間にひとつずつのほうが締め切りを守りやすくなります。締め切りを守れないことを叱るよりも、守れるような工夫をするほうが得策です」
【当事者へのアドバイス】
「待ち合わせには15~30分前に着くつもりで、出る時間を逆算する癖をつけましょう。そして、事前に行く場所をチェックして、何時の電車やバスに乗ればいいのか確認しておくことを習慣にしてください。
仕事の納期もあえて早めに設定してスケジュールを書き出し、それに沿って進めるようにします。待ち合わせでも締め切りでも、約束を守れないことは予想以上にマイナス評価になります。それを自覚して、常に時間にゆとりを持って行動する癖をつけましょう」
【教えていただいた方】

司馬クリニック院長。岡山大学医学部・同大学院卒業後、1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てながら、ADHDについて研鑽を深め、1997年に帰国後、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニック「司馬クリニック」を開院。著書は『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)をはじめ、『わたし、ADHDガール。恋と仕事で困ってます』(東洋館出版社)、近著『もしかして発達障害?「うまくいかない」がラクになる』(主婦の友社)など、多数。
イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子