「大人の発達障害のASD(自閉スペクトラム症)には、受動型、積極奇異型、孤立型などのタイプがあります。それぞれに困り事が違う場合もありますが、共通に見られる特性もあります。そのひとつが、場の空気を読んだり、相手の立場に立って考えるのが苦手なことです。今回はそんなASDの積極奇異群のタイプで、この傾向が強い人のケースを見ていきましょう」(司馬理英子先生)
※大人の発達障害についての基礎知識は第1回参照。
ASD積極奇異型のM子さんの場合
相手に応じた言葉遣いが苦手で、思ったことをそのまま口にする
M子さん(38歳)は独身で一人暮らし、アパレルメーカーに勤務しています。
好きな服に囲まれている職場は気に入っていますが、時々、上司や年配の顧客とトラブルになることがあります。それは、人に応じて敬語を使い分けることが苦手だから。
扱っている服は自分より若い層がターゲット。店頭で話す相手はたいがい年下のため、あまり敬語を使わずにすんでおり、そのフレンドリーさが個性として通っています。
ところが、上司や仕事上の年配の顧客にも、同じように馴れ馴れしく話してしまうので、険悪なムードになることがあります。
また、「あなたはお腹が出ているので、その服は着ないほうがいい」「〇〇さん、そのズラ不自然ですよ」など、思ったことをストレートに言ってしまうところがあります。たとえ、相手のことを思って言ったことであっても、言い方次第で傷つけてしまうことも。しかし、本人はそれに気づいていません。
場の空気が読めない、暗黙の了解ができない
会議の場では、上司の意見でうまくまとまりそうなとき、最後に「それは違うと思う」と、反対意見の自論を展開。そのため会議は延々と続くはめに。
また、友達数人で集まっていたとき、A子が「ここだけの話よ!」とその場にいないB子の噂話をしました。ところが、そのB子本人に「あなたって〇〇なんですって?」と言ってしまったことで、友人関係に大きなヒビが入ってしまいました。
【ASD積極奇異型の特徴】★印がM子さんの特徴で、〇は受動型と共通。
★思ったことはそのまま言う
★相手の気持ちがわかりにくい(空気が読めない)
★言われたことを真に受ける
★人とかかわるのが嫌いではなく積極的
●振る舞いが自己中心的に見える
●人との距離感が独特で、強引なときもある
●感情表現が大げさで、カッとなりやすく、衝動的
〇興味のあることにのめり込む
〇自分の規則やルールを守ろうとする
〇予定変更が苦手
「ASDの人のこうした行動の背景には、『間違ったことをそのままにしておきたくない』『嘘が嫌い』『気がついたことはしたい』といったことがあり、『周りに配慮して言わない』という選択ができません。こうしたことがすべて悪いわけではありませんが、時と場合によります。
自分の発言によって相手がどんな気持ちになるのか? を想像するのが苦手です。通常は、『普通はこうやるよね』『普通はそんなことは言わないよね』と考えて、発言を控えたりするのですが、ASDの人はその『普通』がわかりません。
常識や暗黙の了解に気づかなかったり、そもそも理解していないことも。例えば、A子さんが話したB子さんの噂話で、最初に言った『ここだけの話よ!』は『ここにいない人には話してはいけない』という意味を含んでいますが、そこまでくみ取ることができません。
敬語を適切に使えないのも、こうした『通常の配慮』が苦手なことが影響しています。決して悪気があるわけではありませんが、言われた側はいい気持ちではないので、自然と距離を置くようになるでしょう。また、こうしたASDの人が上司の場合、正しいことでも言いすぎてパワハラになることもあるので、注意が必要です」
【周りのサポート】
「ASDの人の場合、自分の言動により、その場の雰囲気が変わったことには気づくのですが、自分のどの部分が問題だったのかがわかりません。
周りのサポートとしては、そのときの流れをたどり、どのひと言が爆弾だったのかまで解説する必要があります。その際、遠回しな言い方や抽象的な言い方では伝わりません。できるだけかみ砕いて説明します」
【当事者へのアドバイス】
「自分は『嘘ではない』『本当のことを言っているだけ』『あなたのことを思って言っている』かもしれませんが、それにより相手が傷ついている、不快に思っていることを少しでも理解しましょう。
信頼できる人や家族などに、今まで失敗したケースではどのような言動をするとよいのか解説してもらうのもいいでしょう。
発言に迷ったときは、とにかくその場は控えて、これは本当に言っていいことかを再考する癖をつけます。そうすることで、同じことを言うにしても感情的やきつい言い方を避けられます。
また、仕事などで説明や発言をしなければならないときは、あらかじめ文言を作っておきます。敬語もよく使うフレーズを書き出します。そのうえで、実際に声に出して練習するといいでしょう」
※ASD受動型のA子さんの場合は第3回参照
※ASD積極奇異型のH美さんの場合は第4回参照
【教えていただいた方】
司馬クリニック院長。岡山大学医学部・同大学院卒業後、1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てながら、ADHDについて研鑽を深め、1997年に帰国後、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニック「司馬クリニック」を開院。著書は『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)をはじめ、『わたし、ADHDガール。恋と仕事で困ってます』(東洋館出版社)、近著『もしかして発達障害?「うまくいかない」がラクになる』(主婦の友社)など、多数。
イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子