股関節まわりに問題を抱える人は、年を重ねるごとに増えていきます。以前は加齢が原因だとか、生まれつきの骨の形によるといわれていましたが、どうもそれだけではないようです。関節そのものでなく、それにかかわる筋肉のトラブルが先に起こることを、知っておきましょう。
お話を教えてくれたのは…
佐藤正裕さん Masahiro Sato
1976年生まれ。理学療法士。変形性関節症国際学会、日本股関節学会所属。順天堂大学病院リハビリテーション室などを経て、国際学会最新の保存療法をもとに独自のケア法を確立、2010年「股関節ケアサロン銀座プラス」をオープン。著書に『変形性股関節症は自分で治せる!』(学研プラス)など。https://ginzaplus.com/jp/
脚を「内側」にひねる動作が股関節トラブルを呼ぶ!
「股関節まわりの危険度チェック」をしてみて、「どうしてこれが股関節トラブルと関係があるの?」と思った人もいるのでは? 佐藤先生に教えてもらいましょう。
股関節とかかわりの深い筋肉
股関節を自由に動かしてくれるのは、周囲を取り囲む筋肉たち。特にかかわりの深い筋肉をピックアップしてみます。
(左図)
横から見たおもな筋肉
骨盤の横、前側にも、股関節をスムーズに動かすための大きな筋肉が!
中殿筋、大殿筋、大殿筋膜張筋(腸脛靭帯)、大腿直筋
(右図)
後ろから見たおもな筋肉
お尻には外側を覆う大殿筋、その内側に中殿筋。
さらに内部には細かい筋肉が配置。
小殿筋、回転筋群(梨状筋、上双子筋、下双子筋、大腿方形筋)
「前述のように、日本人女性は特有の生活習慣やスタイルがあり、立つ、座る、歩くなどの動作で、無意識のうちに脚を内側にひねる癖がついています。真っすぐ動かすなら問題は起こらないのに、内側に向ける筋肉をエンドレスで働かせてしまうんです。内股癖はもってのほか。これがコリや硬直を呼び、痛みの根源になってしまいます。
さらに、内旋傾向は骨そのものにも悪影響を及ぼします。股関節は丸い骨頭が、おわん状のくぼみにすっぽりはまっていますが、内旋の動きがあまり得意ではありません。大腿骨が前へねじられた状態が長く続くと、骨盤の奥にしっかり収まっていた骨頭が少しずつ前へずれてきてしまうのです。チェック項目の1〜10は、すべて内側へひねる、内旋の動きですよ!」
スリッパを履く、バッグを片側で持つ、なども内旋を誘発する動作になるとは驚きです。また、現代の便利さゆえの筋力低下、運動不足やお尻側の筋肉を使わない生活習慣も股関節トラブルへまっしぐら。チェック項目の11〜18が当てはまる人は要注意です。
趣味や仕事もトラブルの原因に
股関節を窮屈に折り曲げる姿勢を長く続けるのも、よくない習慣。ガーデニングが趣味の人、子犬を飼っている人など、しゃがむ時間が長い人は痛みが出やすい傾向に
あなたのお尻にはエクボができますか?
もともと股関節は、骨が接する面は「関節軟骨」という弾力性のある組織で覆われています。体重を支えたり地面からの衝撃をやわらげたりしているのですが、トラブルが股関節内に及んでしまうと、軟骨がすり減って「変形性股関節症」などの病態に発展していくことも。
股関節トラブルが深刻化していくイメージ
最初は筋肉の疲労感や違和感だったものが、放っておくと痛みに変わり、やがて関節の内部のトラブルに発展してしまいます
そうならないために、佐藤先生が女性に呼びかけているのが「エクボ」のできる健康的なお尻をつくること。
「股関節が正しい位置に収まって、機能を発揮するのに必要なのはやはりお尻の筋肉。筋肉がちゃんとついていれば、お尻をキュッと締めたときに左右にへこみができますよね。それがお尻エクボです!」
理想は「エクボ」が できるお尻!
お尻をキュッと締めたときお尻の脇、あるいは大転子の後ろにエクボができれば、筋肉は良好な状態
「股関節は自分自身でケアすれば若返るし、痛みのない状態に戻すことも可能。ケアとは、増やしたい筋肉は鍛え、こりやすい筋肉はほぐすこと。私は『股関節セラピー』と呼んでいます。
例えば、変形性股関節症は軽度でも『手術しかない』『ゆくゆく人工関節に置換すべき』と言われてしまう方が多いんです。でも、私のサロンに来た患者さんは、ご自身のケアだけで手術をすることなく日常生活を送れている方がほとんどですよ」
イラスト/内藤しなこ 構成・原文/蓮見則子