バセドウ病による眼症に悩まされたライターSの治療と手術の軌跡を4回に分けてご紹介。2回目となる今回は「眼症が進行」編です。また、バセドウ病眼症の治療について、2人の専門医に詳しく伺いました。
②眼症が進行
バセドウ病発覚から半年後、焦って眼科にもかかったものの…
バセドウ病の治療では、月に1〜2回、血液検査で甲状腺ホルモンの数値をチェックして薬の服用量を調整してもらっていました。そんなある受診日のこと、内科医に目が出てきたことを相談すると、「僕は気になりませんよ」と。特に対策する必要も方法もないとのことでした。
その頃は、PC作業をしているとすぐ目が乾き、目の中にまつ毛が入ったような異物感があることもしばしば。そうか、目の不調だから診てもらうべきは内科ではなく眼科かも。では、どこの眼科に? とリサーチを始めたところ、バセドウ病による眼症を診てくれる眼科を発見。それと同時に、バセドウ病は眼科にも早めにかかる必要があると初めて知ったのです。
その眼科のサイトを見てみると「バセドウ病眼症は発症して半年〜1年ほどで炎症が治まる」「治療は炎症が起きているときが有効」との説明が。バセドウ病と診断されたのは半年以上前です。ああ、もっと早く知っておきたかった。
眼科を訪れると、「きっとこの人もバセドウ病」と思える患者さんがいっぱい。ギロッと見開いているような、まぶたを持ち上げるために眉間にシワが寄っているような、私の目に似た独特の目つきです。こんなに多くの人が同じ症状に悩んでいたとは驚きでした。
検査の結果は、通常15㎜以下だという眼球突出度が私の場合は21㎜とかなり出ていました。しかし、すでに炎症は治まりつつある非活動期で「まぶたにステロイド注射を打つ治療をしても、今からでは効果は出にくい」とのこと。でもせっかくだから、と注射してもらいましたが、残念ながら目はへこみませんでした。
●教えてくれた先生方
鹿嶋友敬さん Tomoyuki Kashima
眼形成専門医師・医学博士。オキュロフェイシャルクリニック 東京院長。今までに日米通算で5,000件以上の眼窩・眼瞼疾患の手術を担当。海外の学会で年4回ほど講演を行い、つねに最先端の知見を追求している
後関利明さん Toshiaki Goseki
医師・医学博士。カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)臨床フェローでの研修を終了し現職、北里大学医学部眼科学講師。専門は神経眼科、小児眼科。斜視手術、眼球運動障害・複視の治療を中心とした神経疾患に精通
◆バセドウ病眼症は治療が必要なの?
「眼球突出が悪化すると目がきちんと閉じられない兎眼(とがん)になったり、目のまわりの筋肉に腫れが生じて斜視や複視になることも。特に下直筋(眼球下の筋肉)が腫れると上下に目がずれます。そうすると人と目線を合わせられなくなるなど、QOLに影響を及ぼすことも考えられます」(後関先生)。「眼症は発症して半年〜1年ほどで炎症が治まって非活動期に。そうなると、目の症状は自然治癒せず後遺症として残ります」(鹿嶋先生)。
バセドウ病と診断されたら、内科とは別に眼科にかかることも必要だったのです。
◆眼症になっているのか調べる方法は?
「眼症の自覚症状がなくても、バセドウ病と診断されているのなら年1回は眼科でも経過を診てもらうといいでしょう。バセドウ病眼症の判断に必要な項目は、視神経が圧迫されることで低下する恐れがある視力や視野、筋肉が腫れると動きに支障が生じる眼球運動、眼球突出やそれに伴って傷がつきやすい角膜・結膜など。眼症が活動期かどうか判断するにはMRIが有効です」(後関先生)。
検査は普通の眼科医院でも可能とのことですが、治療を考えたら大学病院や専門医に相談するのがよさそう。
◆バセドウ病眼症は治せるの?
目の機能に悪影響が出ていたり、目つきの変化が気になる場合は早めに治療を始めるのが肝心。目に炎症が起きている眼症活動期なら、以下の方法で症状を緩和させることができます。
「ボツリヌス毒素注射や放射線治療のほか、炎症が強い時期の治療なら、3日間連続してステロイドを点滴、4日あけるという1クールを、数回繰り返すパルス療法もあります」(後関先生)。「ステロイドは内服、点滴、まぶたに注射という3つの治療法があり、副作用が少なく効果も高いとされているのが点滴です。日帰り、入院など医療機関によって治療法が異なります」(鹿嶋先生)
次回は「眼症が後遺症に」編をお届けします。
イラスト/中野久美子 原文/佐藤素美