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作家・篠田節子さんが”乳がん”に。乳房再建を決めた理由は”水着”だった!? /インタビュー前編

デビューから約30年、第一線で活躍し続ける作家・篠田節子さん。 最新作『介護のうしろから「がん」が来た!』で綴られているのは、「乳がん」と「老親の介護」という、私たち世代がドキッとさせられる2つのテーマ。第一回は篠田さんが乳がんと診断され、乳房の全摘手術と、右乳房再建を決めるまでについてのエピソードをご紹介!

 

撮影/内田有紀子 ヘアメイク/レイナ 聞き手・構成/村上早苗

<プロフィール>

しのだ・せつこ 1955年東京都生まれ。’90年、『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、’15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、’19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞など、受賞歴多数。そのほか、『廃院のミカエル』『弥勒』『肖像彫刻家』など多数の著書がある。

 

「今ならこのお値段!」という

心境になり、乳房再建を決めました

 

エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』は、’18年3月、従姉妹たちとの熱海旅行中に、乳腺クリニックからの電話を受けるシーンで始まる。3週間前に乳腺外科で受けた乳がんの検査結果について、「早急に知らせたいので、”家族も一緒に”来るように」という連絡だ。篠田さんはそれを、「となれば、検査結果のシロクロはおのずと知れる」と、熱海名物の最中をかじりながら(!)、冷静に受け止めて……。

 

「ショックというよりも、これから手術やら治療やらで、辛く不自由な生活が始まると思ったら、『今のうちに楽しんでおかなくちゃ!』という気分が先に立ったという感じです。プールに入り、温泉につかって、夕食のブッフェでは、健康に悪そうな高カロリー、高脂肪の料理を食べまくって。いっしょにいた従姉妹たちは、青くなりながらも、あえて明るく振る舞っていましたから、私が一番ケロッとしていたかもしれませんね。もともと脳天気なところがあるもので。それで失敗することもけっこうあるんですけど(苦笑)」

 

検査を受けたのは、右胸の乳頭からの出血を発見したのがきっかけだった。問診、触診、マンモグラフィー、エコーと続き、さらに分泌液を採取して検査。その結果、乳がんの疑いが深まり、針生検によって、ステージ1から2の間の乳がんという診断が下される。「腫瘍ができてから3年ほど経っている」とも告げられた。

 

「触診とマンモグラフィーだけでしたが、自治体の乳がん検診は定期的に受けていて、毎回『異常なし』という結果だったんですけどね。もっとも、少し前から胸に痛みを感じることはありました。でも、『がんは痛くない』という変な先入観があって、それほど気にしていなくて。母を家で看ていた時期で、『今はそれどころじゃない』という状態でもありました」

 

介護、子育て、家事、仕事。目の前の”やらなければいけないこと”に追われていると、自分のことは後回しになりがちだ。予兆があっても、見て見ぬ振りをしてしまう人は少なくないだろう。篠田さん自身、医療機関に足を運んだのは、お母様が介護老人保険施設(老健)に入所した後だった。

 

「実は、前から甲状腺腫瘍が発見されていたんですが、自分のことなどかまっていられず、精密検査に行っていなかったんですよ。母が老健に入ったので時間ができ、思い立って検査を受けたのですが、そちらの結果が出ないうちに、乳頭から出血。乳がんの発見、治療につながるわけですが、もしも、老健に入っていなかったら……。小さな出血くらいなら、病院に行かなかったかもしれません。そう考えると、すんでのところで命拾いしました。

 

自分の身体に異変が起きている時は、何かしらサインがあるはず。検診を受けるだけでなく、日常的に自分の体の状態に気を配ることを怠ってはいけないのでしょうね。私も、病気になって初めて、自分ファーストに切り替えることの大切さを痛感しました」

 

「なんとか温存で」と思っていたけれど全摘に。そして…。

 

こうして、篠田さんの治療がスタート。4月初旬に、聖路加国際病院のブレストセンターで担当医と初めて面談し、手術日と、がんがある方の乳房を全摘することが決まった。

 

「面談の前は、『形が悪くなってもいいから、なんとか温存で』という気持ちがありました。60歳過ぎて、誰に見せるわけでもないけれど、自分の体が変わってしまうことに、なんとなく抵抗があったんですよね。でも、先生から、私の場合は、温存では取り切れない不安があることを聞き、腹をくくりました。

 

ただ、その場で、”全摘した後”の選択も求められたのは予想外でした。再建するなら、切除手術と同時に再建のための事前処置をしなくてはならないからなんです。『62歳で再建なんて、ない、ない!』という気持ちと、『片方なくなったら、水着を着る時は(篠田さん唯一の趣味は水泳)、パッドを入れないといけない。でも、それが外れて、プールにプカプカ浮かんでしまうなんてことになったら!? ならば、皮膚の下に埋め込んでしまった方が……』という思いが、交錯しました。そうしたら、先生が『再建するのであれば、形成外科の先生との面談日を押さえないといけません』と。乳房再建できる形成外科医は少なく、スケジュールを押さえるのは大変、何より手術まで間が無い。先生の手は、すでに電話に掛かっていて、こちらとしては、テレビ通販の『今すぐお電話いただければ、このお値段!』という心境に(笑)。即座に『お願いします!』と頭を下げていました」

 

テレビ通販!? 私たちがイメージする「がん闘病記」とは、なんだか様相が違うような……。

 

次回は、篠田さんが体験した手術や入院ライフ、乳房再建について、語っていただきます!

 

介護のうしろから「がん」が来た!』 乳がんと介護という重くなりがちなテーマを、作家ならではの観察眼とリアルな描写で綴った痛快ドキュメント。WEBサイト「よみタイ」に連載されたものに、篠田さんの乳房再建を担当した形成外科医との対談も新たに収録。読み物としてのおもしろさに加え、情報収集にも役立つ充実の内容だ。(本体1300円+税  集英社)

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