ところで、そもそも「免疫力」とは?
私たちの体には、細菌やウイルス、さまざまな病気から体を守り、健康を維持する力が備わっています。それが「免疫力」です。同じ環境にいても、風邪を引きやすい人と引きにくい人がいますが、それこそが免疫力の違いなのです。
では免疫のシステムとは、どのようなものなのでしょうか?
免疫について詳しい、順天堂大学医学部 免疫学特任教授の奥村 康先生にうかがいました!
監修/奥村 康さん(おくむらこう・医学博士)
順天堂大学医学部免疫学特任教授。アトピー疾患研究センター長。スタンフォード大学リサーチフェロー、東京大学医学部講師、順天堂大学医学部教授、同大学医学部長などを経て、現職。免疫学の国際的権威である。著書多数。
「私たちの体内に備わった免疫には、2つの段階があります。第一段階の防御壁は、鼻や口の中の粘膜や唾液。病原体を退治する殺菌・抗菌の作用を持つ粘膜や唾液は、外部から病原体が侵入すると、咳やくしゃみ、タンなどでこれらを体外に排出しようとします」
咳やくしゃみなど風邪の典型的な症状は、病原菌を体内に入れないようにするための防御反応だったのですね。
ところが、唾液はストレスがあると減少し、粘膜は乾燥に弱いという性質が…。粘膜が乾燥したり唾液の分泌が減ると、この「免疫の第一防御壁」が力を発揮できないため病気にかかりやすくなるのです。ストレス過多な生活をしていると風邪をひきやすかったり、冬の乾燥時期にインフルエンザが流行るのは、唾液や粘膜の働きとも関係しているのです。
「自然免疫と獲得免疫」の2段構えで体を守る!
この第一防御壁を突破して細菌やウイルスが侵入してしまった場合、次に応戦するのが「白血球」です。免疫細胞の総称である白血球にはいくつかの種類がありますが、大きく「自然免疫」チームと「獲得免疫」チームに分けられます。
「自然免疫」は、人が生まれ持っているもの。
マクロファージや好中球、NK細胞といった免疫細胞は血液やリンパ液に乗って絶えず体内をパトロールし、ウイルスや細菌の侵入、がん細胞などの発生がないかチェックしています。異物を発見すると、すぐに攻撃して体を守ります。いわば「町のおまわりさん」のような存在です。
一方の「獲得免疫」を担うのは、白血球の中のリンパ球と呼ばれる免疫細胞。リンパ球は、自然免疫だけでは敵を倒しきれなかったときに応援に駆けつけます。リンパ球にはT細胞とB細胞があり、T細胞は敵の特徴を見分けて、その情報とともにチームに攻撃指令を出します。それを受けて、B細胞は敵に見合った武器(抗体)で応戦。これらはいわば、非常時に駆けつける「軍隊」のような存在です。
ちなみにこの獲得免疫は、特定の病原菌に感染することで得られる免疫機能。例えば、はしかに一度かかると、その免疫を獲得するので、基本的に再びはしかにはかかりません。このシステムを利用したのが、予防接種(ワクチン)です。
注目すべきは、自然免疫を担うNK細胞!
「この2種類の免疫隊が体内で複雑かつ見事な連携で外敵と闘うわけですが、本来なら、自然免疫だけで対応できるのが理想です。例えば、風邪やインフルエンザのウイルスが侵入した場合、発熱などの症状が出たときは、自然免疫チームがかなりやられてしまい、獲得免疫チームが発動している状態です。その前の軽症ですむに越したことはないわけです」(奥村先生)
つまり、私たちが心がけるべきは、自然免疫を高めること!
「その自然免疫を支える要、もっとも注目すべきは『NK細胞』です。リンパ球の一種であるNK細胞は、ほかの免疫細胞の指令や応援がなくても単独で力強く闘い、外からの侵入者だけでなく、体内で生まれたがん細胞などもやっつけてくれます。よって、このNK細胞がしっかり働いていると、病気になりにくい。免疫力アップのポイントはNK細胞の活性化にあるのです」
新型コロナウイルスのような新しい病原菌でも、“おまわりさん”役である自然免疫、特にNK細胞がしっかり機能していれば重症化しにくいわけです。
連載第2回では、その大切な免疫力が低下するとどうなるかをお伝えします!
イラスト/しおたまこ グラフ作成/ビーワークス 取材・文/山村浩子