お話をうかがったのは、国際オーソモレキュラー医学会会長の柳澤厚生先生。
オーソモレキュラー(分子整合栄養医学)とは、ビタミンやミネラル等の栄養素を正しく取り入れることで病気の予防や治療を行うという、近年注目されている医療です。
監修/柳澤厚生さん(やなぎさわあつお・医師)
国際オーソモレキュラー医学会(カナダが本部)会長、点滴療法研究会会長。杏林大学保健学部救急救命学科教授、国際統合医療教育センター所長などを経て、2012年より現職。日本でいち早く高濃度ビタミンC点滴療法を導入した、点滴療法の第一人者。著書多数。
「新型コロナウイルスに感染しても、無症状、軽症、重症、重篤と、症状のレベルはさまざまです。その違いを左右する大きな要因こそが、免疫力です。この免疫力を高めるために、ある栄養素が注目されています」と柳澤先生は言います。
免疫力アップ対策に加えたいのは「栄養の強化」!
「ウイルスに負けない体づくりに重要なこととして、WHO(世界保健機関)は次の6つを提唱しています」(柳澤先生)
1・バランスのとれた栄養価の高い食事をとる
2・アルコールは控えめに、甘い飲み物を避ける
3・禁煙(喫煙は重症化リスクを高める)
4・適度な運動
5・十分な睡眠と休養
6・過度なストレスを溜め込まない
「中でも私が注目しているのは、1の栄養の強化です。栄養価の高い食事は、免疫システムを適切に機能させるサポートとなります。私は体内の栄養状態を分子レベルで最適化しておくことが、免疫力や自然治癒力を最大限に上げる秘策だと考えています。その重要かつ不可欠な栄養素が、ビタミンCとD、そして亜鉛です」
その筆頭であるビタミンCの効果とエビデンスとは、どんなものなのでしょうか?
「ビタミンCは免疫機能を正常化する」に大きな期待!
「ビタミンCの効果のひとつに、高い抗酸化作用があります。私たちの体は生きていくために酸素が不可欠です。呼吸によって体内に取り込まれた酸素の一部は通常より活性化され、活性酸素になります。この活性酸素が過剰になったり、酸化すると、細胞を傷つけ、老化やさまざまな病気の発症の原因に。
この活性酸素によるダメージを抑えることを『抗酸化』と呼びます。先述のとおり、ビタミンCには高い抗酸化作用があるため、こうした細胞の老化を抑えてくれるのです。
さらに、ビタミンCは組織の修復も助けます。体の内外を構成するすべての細胞はコラーゲンからできていますが、この生成に不可欠なのがビタミンC。ダメージを受けた細胞を修復するだけでなく、皮膚や粘膜、血管や臓器の健康を守る役目も果たしています。
これらに抗ストレス作用や、白血球の働きを整える効果も加わることで、免疫機能全体を正常化へと導きます。ビタミンCが持つこうした働きは、抗ウイルス効果や、風邪・インフルエンザの症状を緩和するものとして、今、私だけでなく、世界の医師たちが注目しているのです」
ビタミンCといえば柑橘類などのフルーツが代表と思われがちですが、一般的な野菜やフルーツにも含有量の多いものがたくさんあります。
例えば…
ピーマン(赤、緑)、キウイフルーツ、ブロッコリー、イチゴ、芽キャベツ、メロン、キャベツ、カリフラワー、じゃがいも、トマト、ホウレンソウ
(※参考/厚労省「統合医療に係る広報発信など推進事業」サイト)
…など、意外とおなじみの野菜にも多く見られます。こうした食材を日常的に、バランスよく取り入れたいもの。
また、ビタミンCは水溶性で水に浸けると失われやすく、加熱にも弱いのですが、ジャガイモやサツマイモのビタミンCはでんぷんの働きで安定しているので効率的に摂取が可能。また、摂り過ぎた分は尿として排出されてしまうので、1日のうちに何回かに分けて摂るといいでしょう。
ビタミンCは、風邪薬よりも症状緩和に効果あり!
ビタミンCの抗ウイルス効果を裏付けるものとして、1990 年と1991年に行われた「ビタミンCと風邪症状に関する」実験結果があります。
「南米チリのサンチャゴ市にある合宿所で、10日間の運動プログラムに参加した学生を対象に行われた実験です。90年度では、463人の学生のうち風邪症状(ウイルス性呼吸器感染)のある人に、自己判断で風邪薬か解熱剤を服用してもらいました。
一方、91年度には、252人のうち風邪症状のある人にビタミンC 1gを1日目は1時間ごとに6回、以後は1日3回服用してもらい、無症状の人にもビタミンC 1gを1日3回服用してもらいました。
その風邪の予防と症状軽減の効果を比較したところ、90 年度の風邪薬服用群では、症状の増減はあるものの、結果的には改善はされませんでした。一方、91年度のビタミンCの服用群では、症状が日を追うごとに減り、約85%減少したという結果が出たのです(下グラフ参照)。この結果は、ビタミンCによって風邪やインフルエンザの症状の予防や軽減ができたことを示しています。
この試験結果は1999年に『ウイルス性呼吸器感染症に対するビタミンCの予防・症状軽減効果』と題してアメリカで論文発表されています」
さらに柳澤先生は、ビタミンCの効果に関してこう続けます。
「新型コロナウイルスは、風邪症状を引き起こすコロナウイルスの亜型(同型から派生したもの)なので、この試験結果から、新型コロナウイルスに対してもビタミンCで感染予防や重篤化の予防ができるものと期待しています。
実際に、ニューヨーク州のノースウェル・ヘルス病院グループ下の病院では、新型コロナウイルスの重症患者に大量のビタミンC点滴が実施されたと報じられました。これは、中国・上海で行われたビタミンCの大量投与が患者の回復を早めたという臨床データから導入したものです。
また、今年2月には、中国の武漢大付属中南病院と西安交通大付属病院で新型コロナウイルスの重症患者の治療に、ビタミンCの点滴を併用する臨床試験が行われています。その結果は今年の9月頃には明らかになるはずです」
結果が出るのはまだ先のようですが、ビタミンCの新型コロナウイルスの予防や症状緩和への効果に大いに期待したいところです。
続いて次回、第10回は、免疫力を上げる栄養素その2、「ビタミンD」についての最新知見をご紹介します!
イラスト/しおたまこ グラフ作成/ビーワークス 取材・文/山村浩子