日進月歩する医療の力のおかげで、今のがん治療法は一昔前とは変わっている場合があります。もしもの時に慌てないために、がんについて正しく知っておきませんか? 今回もがん治療の本当の姿についてご紹介します。
今回の質問に答えていただいた先生
勝俣範之さん
Noriyuki Katsumata
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科部長。がん患者と向き合いながら正しいがん情報を配信。『医療否定本の嘘』(扶桑社)など著書も多数
清水 研さん
Ken Shimizu
国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科長。がん患者や家族の心に寄り添う。『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社)が話題に
本当?
抗がん剤は、
"悪"だと思っている
「抗がん剤」でネット検索すると、「体に悪い」「副作用」「アメリカでは抗がん剤を使わない治療が増えている」といった文言が目に入ります。「確かに抗がん剤は強い薬ですし、使い方を間違えば体にダメージが出ることもあります。ですが、正しく使えばがんの生存率を上げることができる『標準治療』のひとつ。抗がん剤は、世界でも有効な治療法として確立されている、がんの最善の治療法なのです」(勝俣先生)
本当?
がんになったら、
著書やネットで評判の
治療や医師にかかりたい
「ネットには正しいがんの情報が少ないといった調査研究(次回以降参照)もあります。また、同じがんの種類であっても性別、年齢、進行度などで治療法は異なるため、個人の体験談がリスクになることも。医学的根拠がある情報を掲載している国立がん研究センターの『がん情報サービス(次回以降参照)』で、まずは情報を得るのがいいでしょう」(勝俣先生)
本当?
がんは
死ぬ病気だと思っている
前出の「がん対策に関する世論調査」で、がんが怖いと答えた人は72.3%。その理由を聞くと「がんで死に至る場合があるから」との回答が72.1%も。今も多くの人が、がん=死の病という印象を持っているようです。「現在はがんの5年生存率は6割を超え、必ずしも"死に至る病"ではなくなっています。ここ10年でがんを取り巻く環境も変化し、進行がんでも、以前より長く共存が可能な時代になっているのです」(勝俣先生)
がんに関する医療技術は日進月歩。90年代までは50%台だった5年生存率が、2006~2008年には62.1%と上向きに。使用できる薬が増え、治療の幅や緩和ケアも広がっている今、がんに抱いている「つらい、怖い」イメージを覆すべきときが来ています
出典/全国がん罹患モニタリング集計 2006-2008年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター、2016)、独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書
本当?
がんになると痛みや苦痛で
日常生活が送れない
「がんでつらい症状が出ることもありますが、適切な医療で痛みや苦しみを改善することは可能です。最近は就労しながらがんと共存される方も多く、通院で抗がん剤治療をする人も増えています。日常生活が送れないと決めつけてしまうのは早計です」(勝俣先生)。「また最近は、専門家によるカウンセリングなどでがん患者やそのご家族を精神面で支える『精神腫瘍科』も少しずつ増えています。がんは体だけでなく、メンタル面でもダメージを負う病気。くじけそうなときは、そんな専門医のサポートがあることも知っておいてください」(清水研先生)
次回からはがんと告知されたときに知っておきたいことについてご紹介します。
イラスト/緒方 環 取材・原文/伊藤まなび