「がんになったら"標準治療"」。これは今日、世界におけるがん医療の鉄則です。特に抗がん剤についてはネガティブな風評もありますが、間違った情報に振り回されないためにも、がんの標準治療の真実を知っておきましょう。
今回の話を伺った先生
勝俣範之さん
Noriyuki Katsumata
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科部長。がん患者と向き合いながら正しいがん情報を配信。『医療否定本の嘘』(扶桑社)など著書も多数
清水 研さん
Ken Shimizu
国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科長。がん患者や家族の心に寄り添う。『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社)が話題に
「標準治療」って
どんな治療?
「がんになったとき、必ず受けるべきは標準治療。それ以外の民間療法は受けるべきではありません。これはぜひ心得ておいてください」と勝俣先生。「標準というと可もなく不可もなくという印象を受けますが、現在、最も治療効果の成績が高いというエビデンス(科学的根拠)が実証された、世界で証明された最高峰の治療が標準治療です」。標準治療には、手術、薬物療法(抗がん剤・ホルモン療法など)、放射線の三大治療があり、体や心のつらさをやわらげる緩和ケアも加わります。これらを組み合わせるか、単独で治療を行うのが治療の基本。「標準治療はがんの種類や進行状況によって異なり、同じがんでも複数の選択肢があります。がんに精通した専門医が、患者さんと相談しながら、その方にとって最適な治療法を選びます」(勝俣先生)
がんの標準治療(手術、薬物療法、放射線療法)と、免疫療法の一部は保険適用。その他の免疫療法や温熱療法、民間療法などは自由診療です
標準治療により
生存率は向上
がん医療においてこの15年で飛躍的に変わったのは、薬物療法の進化です。「がん細胞と同時に正常な細胞にもダメージを与えてしまう抗がん剤に加えて、"分子標的薬"という、がんの増殖にかかわる細胞内分子だけをたたく新たな薬が続々と登場しています。これまでは海外で使用されている治療薬が日本で承認されるまでの時差"ドラッグ・ラグ"が大きかったのですが、2006年の法改正で分子標的薬の認可が急速に進み、50種類以上の薬が新たに認可。これによって、より多くのがんへの治療が可能になりました」と勝俣先生。がんが治る人や再発しても使える薬が増えたことで、5年生存率(第9回参照)も10年生存率(下グラフ)も伸びていて、今後も向上すると期待されています。「日本で承認された標準治療はすべて保険適用になりますし、分子標的薬も一部のがんの部位を対象に、保険適用が進んでいます」(勝俣先生)
向上する「がんの10年生存率」
2002~2005年にがんと診断された人の10年後の生存率は、がん全体で56.3%。1990年代後半から伸び続けています。
出典/国立がん研究センター「がんの10年生存率の推移」(2019年調べ)
次回は、抗がん剤とがんのオーダーメイド治療についてご紹介します。
イラスト/緒方 環 取材・原文/山崎多賀子