がん治療に関する正しい知識を得て、もしもの時に最適な治療法を選べるように備えておきましょう。
今回の話を伺った先生
勝俣範之さん
Noriyuki Katsumata
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科部長。がん患者と向き合いながら正しいがん情報を配信。『医療否定本の嘘』(扶桑社)など著書も多数
清水 研さん
Ken Shimizu
国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科長。がん患者や家族の心に寄り添う。『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社)が話題に
「抗がん剤=怖い」は古い価値観
「世界各国の医療者や研究者がこぞって開発を進める、がん治療薬。その中で、本当に安全で効果があると実証されて標準治療になるまでには、長い長い道のりがあります」と勝俣先生。最初に候補として期待される成分(化合物)が発見されると、細胞実験や動物実験を経て、安全性と効果が認められたものだけが、患者も参加する臨床試験へと進みます。これにも3段階あり、第1相、2相を勝ち抜いたわずかな候補成分のみが第3相試験に進むことができます。第3相のランダム化比較試験では、患者を「現在の標準治療を使う群」と「候補の薬を使う群」に分けて効果を見ます。患者も医師も、どちらを使っているのかは知らされません。その結果、候補の成分に明らかな有効性が認められて初めて、標準治療として承認されます。その競争率は、実に1万分の1。臨床試験に参加してくれた多くの尊い患者さんのうえに「標準治療」があるのです。(下図参照)
新薬開発までの遠い道のり
出典:米国会計検査院レポート〝New Drug Development〞 November 2006
一人一人に合った
オーダーメイド治療へ
もうひとつ、がん医療を大きく変えたのが"ゲノム医療"の進歩です。「まず、ひとつまたは複数のがん組織の遺伝子を調べる『がん遺伝子検査』を行います。がん細胞の特徴を知ることで、同じ種類のがんでもその人に最適な薬を選んで行うのが、がんゲノム医療です」(勝俣先生)。大腸がん、乳がんなど一部のがんではすでに標準治療として行われ、現在、全国に「がんゲノム医療中核拠点病院」が指定されて体制作りが進められています(厚生労働省サイト「がん診療連携拠点病院等」に詳細掲載)。一方、多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」は、標準治療がなかったり終了したなどの場合のみに行われます。「今は副作用を軽減する医療も大きく進歩しています。ただがんをたたくだけの治療から、患者のQOLを重視したオーダーメイド治療の時代に移行しているといえるでしょう」(勝俣先生)
次回は、がんの不安や疑問について、専門医がお答えします。
イラスト/緒方 環 取材・原文/山崎多賀子