昔と比べると、私たちは随分と長生き出来るようになりました。
「今や日本女性の平均寿命は87歳。OurAge世代がその年になった頃には平均寿命は91.3歳になると計算されています」とは、イーク表参道の副院長であり、スポーツドクター、ヨガドクターとしても活躍する産婦人科医の高尾美穂先生。
そこであらためて考えたいのは、女性ホルモンがもたらす影響。平均寿命が91.3歳になる、ということはエストロゲンで守られている閉経前と、その恩恵が受けられなくなる閉経後の人生が同じくらい続くことに!?
「エストロゲンにあえて名前をつけるなら、女性らしさのためのホルモンです。生理がある間はありがたみを感じないものの、閉経に向けて分泌量が一気に減ってくる頃にはシワが深くなる、くすみが濃くなる、髪が1本1本細くなるなどの変化が起きてきます。それらを『加齢のせい』と思いがちですが、実は肌の弾力やうるおい、髪のつややかさはエストロゲンの働きのおかげなのです」
もちろん、のぼせや手足の冷えなど更年期に起こる身体の変化もエストロゲン量の低下と深く関わっています。
「エストロゲンは卵巣が勝手に出すのではなく、脳の視床下部から下垂体に、下垂体から卵巣へと指令が回ることで分泌されます。更年期世代になると卵巣の働きが衰えてくるわけですが、視床下部はそのことに気づかず今まで通り指令を出し続けます。しかし、卵巣はその期待に応えられないため、視床下部の働きに影響が出てくるのです」
視床下部は私たちが自分の意思ではコントロールすることが出来ない、ホルモンや自律神経、免疫の働きを調整している、と高尾先生。
「そのため、ホットフラッシュの症状が出てきたり、副交感神経を優位にする能力とも関係しているのでリラックスしづらくなったり。また、閉経後はエストロゲンを作る材料として使われていたコレステロールが余ってくるので、コレステロール値は高くなる傾向に。高脂血症、動脈硬化などの生活習慣病を引き起こすほか、基礎代謝量が減ってボンキュッボンの体型がボンボンボンに変化しやすくなってきます。マウスでの研究では、エストロゲンが足りないと脂肪細胞が大きくなるという結果が出ています」
また、骨を強く保つ働きも見逃せないとも。
「骨は毎日7%が壊されて新しく作り替えられています。エストロゲンは骨を壊す破骨(はこつ)細胞の働きを抑える働きを担っていることから、分泌量が減るとこのリズムが崩れ、骨密度が低下してしまうのです」
エストロゲン低下のわかりやすいサインが「尿失禁」!
エストロゲンの受容体(レセプター)は全身の至る所にありますから、このように分泌量低下の影響はあちらこちらに現れてきます。しかし、脂質異常、高脂血症、骨などへの影響は病院で検査しないと判断出来ず、実際に病気になったり骨折をして初めてわかるという残念な現状が。
「唯一、サインを出してくれるのが『尿モレ・尿失禁』です。エストロゲンのレセプターは筋肉にも存在しているため、エストロゲンがなくなると子宮、膀胱、直腸を支えている骨盤底筋が衰えてきて尿モレのリスクが高くなります。そんな尿失禁の対策として推奨される骨盤底筋のトレーニングは〈お尻の穴を締める〉〈オシッコを止める〉〈おまたでティッシュをつまむ感覚〉などとイメージ先行で伝えられることが多いのですが、鍛える筋肉がわかりにくいこともあり、今ひとつ意識できないという声を良く聞きます」
おすすめしたいのが、間接的なアプローチ。高尾先生の著書『超かんたんヨガ』(世界文化社)では、骨盤底筋と連動する大きな筋肉を鍛えることで、骨盤底筋も一緒にトレーニングするヨガのポーズを紹介しています。
OurAgeでも高尾先生の「超かんたんヨガ」を特集しています。行うときのルールやおすすめのポーズなどを紹介しているので、ぜひ参考にしてくださいね!
エストロゲンがなくなる前から対策を!
では、エストロゲン低下による不調はどう対処したらいいのでしょう?
「婦人科でホルモン補充療法を受けることも出来ますが、大豆イソフラボンによるエクオールをサプリメントで補うという方法もあります」
エクオールは、大豆イソフラボンの一つであるダイゼインが腸内細菌によって分解・産生される代謝物。女性エストロゲン様作用があることが知られているものの、このエクオールを作れる腸内細菌を持っている日本女性は5割程度と言われています。
「そこで注目されているのが、腸内細菌を持っていない人でもエクオールを補充出来るサプリメントです。3カ月服用で8割くらいの方が更年期症状、骨粗しょう症やメタボの改善などに効果を実感したというエビデンスが続々と出てきており、私自身も、尿検査によってエクオールを作る腸内細菌を持っていないとわかってからエクオールのサプリメントを飲むようになりました。」
これから長生き出来る時代、賢く情報を選択し続けていくことが必要になってくる、と高尾先生。
「エストロゲンが分泌されなくなってからも何十年と生き続けていくことを考えると、大事なのはエストロゲンがあるうちからの対策です。自分に合った対策を続けていった70歳と、困った時に行き当たりばったりの対策をしてきた70歳では、見た目も身体の内側もあきらかに違う70歳が出来上がります。私たちは、そこからさらに20年生きられる時代にいるのです」
この先、歳を重ねて高齢になってからもやりたいことが楽しめる人生を! そんな意識を持って、今から出来ることを考えてみませんか?
取材・文/佐藤素美