慢性的な疲れや暑がりになるのは、更年期の症状だと思って我慢してしまいがち。でも、それは実は「甲状腺の病気」かもしれません。つらいと思ったら、医療機関で早めに相談してみることが大切です。
今回の話を伺った先生
医療法人山内クリニック理事長。日本甲状腺学会専門医、内分泌・甲状腺外科専門医。近著に『これって、「甲状腺の病気」のせいだったの?』(K&M企画室)など
甲状腺の病気には「働き」の異常と「形」の異常が
甲状腺の病気は、大きく「働きの異常」と「形の異常」に分けられます。
「働きの異常のひとつが、血液中の甲状腺ホルモン値が高い状態(=甲状腺中毒症)。この中には『バセドウ病』に代表される、甲状腺ホルモンが過剰に産生されるものと、『無痛性甲状腺炎』のように、貯蔵されているホルモンが一時的に血液に流れ出てしまうものがあり、いずれも全身の代謝が活発になります。
一方、甲状腺機能が低下する病気は全身の代謝が悪くなり、この代表が橋本病です。『無痛性甲状腺炎』は低下症になることもあります。形の異常では、しこりができる『結節性甲状腺腫』で、良性と悪性があります」
診断は問診と触診、血液検査、超音波が基本。必要に応じて細胞診検査、CT、MRIなどが追加されます。
ホルモン値が高い場合
甲状腺ホルモンが必要以上に分泌される病気と、甲状腺の炎症などで、蓄えられていたホルモンが一時的に血液中に漏れる病気があります。甲状腺の機能が活発になりすぎることで、疲れやすくなったり、動悸や息切れ、暑がりになって汗を大量にかく、体重が減るなどの症状が現れます。バセドウ病は薬(抗甲状腺薬)、手術、放射性ヨードによる治療がありますが、薬から始めるのが一般的です。
ホルモン値が低い場合
甲状腺機能低下の代表が橋本病。多くの場合、ホルモン値は正常範囲ですが、甲状腺に慢性的な炎症が起こって働きが悪くなる病気です。そのために元気がなくなり、冷え症やむくみ、食べすぎていないのに太るといった症状が生じ、よく更年期症状や認知症と間違われます。ホルモン値が低下した場合は、甲状腺ホルモン薬で補充して治療します。ごくまれですが、悪性リンパ腫に発展することも。
結節性甲状腺腫とは
甲状腺に結節(しこり)ができた状態を結節性甲状腺腫といいます。これには、本来の細胞が形を変えた「変性疾患」(良性)と、「腫瘍」(良性と悪性があり、多くは良性)の2種類があります。悪性が疑われるときは細胞診検査を行います。悪性腫瘍の約90%を占めるのは乳頭がんで、この場合は手術が第一選択になります。ほかに、良性のものでも手術が必要なこともあります。
イラスト/しおたまこ 構成・原文/山村浩子