前編では代表的な4つの認知症について教えていただきました。後編では認知症への理解と治療について、東京慈恵会医科大学精神医学講座教授の繁田雅弘先生に解説していただきました。
教えてくれた人
繁田雅弘さん
Masahiro Shigeta
東京慈恵会医科大学精神医学講座教授。同大学付属病院精神神経科・メモリークリニック診療部長。症状よりも「人」を診ることをモットーとし、問診を重視した診療を行う。著書に『認知症の精神療法』(HOUSE出版)、監修『気持ちが楽になる認知症の家族との暮らし方』(池田書店)
誰もがなりうる老化現象です。
認知症の最大要因は加齢。年を重ねれば重ねるほど、認知症になる確率は上がります。誰でもいつかはなる可能性が高く、ならなかったとしても80代半ばを過ぎればもの忘れはぐっと増えます。認知症になりたくない! とやみくもに恐れるよりも、認知症になっても自分らしく生きるにはどうすればいいか、建設的に将来を考えましょう。
進行スピードは遅くなっています。
個人差はありますが、症状の進行スピードは従来に比べて遅くなっています。90年代前半と後半を比べた調査では、治療薬を服用しなくても約半分の進行速度に。今は認知症医療の進歩や認知症ケアの技術、生活習慣病のコントロールが向上し、本人にとって好ましい環境調整もできるようになってきたので、さらに進行が遅くなり、軽度のまま人生をまっとうする人も増えています。
治る認知症もあります。
ビタミン欠乏、脳炎、薬物・アルコール・重金属による中毒など、元の病気を治療することで治る認知症もあります。代表的なのは次の3つ。慢性硬膜下血腫が原因の場合は血腫を取り去ることで、甲状腺機能低下症が原因の場合は甲状腺ホルモンを補充することで症状が改善します。正常圧水頭症が原因の場合は脳脊髄液を脳室から流すと改善されますが、治療の時期が遅れると回復が難しいこともあります。
誤解や偏見が認知症を悪化させています。
認知症になっても、すべての能力が失われるわけではありません。新しいことは覚えづらくなっても、関心のあることなら記憶が定着しやすいし、必要な準備を整えておけば一人でも出かけられます。まわりの理解や協力を得て働いている人も増えています。
「何もわからないから本人は幸福だ」という人がいますが、認知症の人は表には出さなくても、以前のようにできないことに苦しんで、追い詰められた気持ちになっています。それなのに忘れたことをとがめられたり、子ども扱いされれば腹も立つし、言葉が出づらくうまく説明ができないだけに、つい手が出てしまうこともある。暴力や暴言は、まわりが引き出しているともいえるのです。
よくある認知症への間違った思い込み
認知症の症状とされる言動の多くには、まわりの認識とのギャップがあります。目的があって出かけたのに途中で忘れて道に迷ったのを徘徊と言われたり、お風呂が何をする場所かわからなくなっているのを入浴拒否と思われたり。本人の気持ちをくんで、ストレスをかけない、できることを奪わないなど、ケアへの理解が深まれば、認知症の人もその家族も、もっと穏やかに暮らせるはずです。
写真/高橋ヨーコ 取材・原文/石丸久美子