家族や自分が認知症になり、介護が必要になったときに必要なことや心得ておくべきことを、医師で群馬大学名誉教授の山口晴保先生にお伺いしました。
教えてくれた人
山口晴保さん
Haruyasu Yamaguchi
医師、群馬大学名誉教授、認知症介護研究・研修東京センター長、日本認知症学会名誉会員。脳βアミロイド沈着機序をテーマに30年にわたり病理研究を続け、その後、臨床研究に転向。より実践的な認知症医療・ケアに取り組んでいる。著書多数
家族や自分が認知症になり、介護が必要になったときのために、知っておきたいのが介護保険についてです。2000年から始まった公的な介護保険制度で、40歳以上の健康保険に加入している人は、全員自動的に入っています。これを使うと、少ない自己負担で介護サービスが受けられます。
利用には申請が必要で、申請が受理されると、訪問調査でどの程度の介護が必要なのかを確認。「非該当」~「要介護5」の8段階に分けられ、ケアプランが作成されます。まずは市区町村の窓口や地域包括支援センター、居宅介護支援事業所に相談を!
「脳も骨や筋肉と同じように、使うほどに強くなり、回復する力があります。脳トレなど、脳を刺激する方法はいろいろありますが、私が編み出した“脳活性化リハビリテーション5原則”の実践によっていい効果が出ることが報告されています」。
その5原則とは、①快刺激で笑顔に ②褒めてやる気を引き出す ③楽しい会話で安心を ④役割を持つことで生きがいを生む ⑤失敗しないように支える。「認知機能そのものを高めようとするのではなく、楽しく人と交わることで、自分の役割を見いだし、能力を引き出すことを目標にしたものです。
やりたくない脳トレなどをイヤイヤやるのでは逆効果。本人も支える家族も“ともに楽しい”ことが、脳の老化を遅らせる秘訣です」
自分や家族が認知症になれば、確かにきれいごとだけではすみません。気持ちもふさぐし、イライラもして、時には爆発してしまうこともあるでしょう。
「しかし、本人も介護側も、怒ったところで症状がよくなることはありません。逆に進行させてしまう可能性のほうが高い。物事には必ず二面性があります。つらい介護と思っても、よいことや楽しいことに気づけば、気持ちが前向きになります。
たとえば、『できないこと=困ったこと』→『できないこと=私がしてあげられること』ととらえれば、少しでも嬉しく介護できるのではないでしょうか」
写真/高橋ヨーコ 取材・原文/山村浩子