認知症は体の老化が密接に関係しており、〇〇をしたら防げるといったことは無いと、医師で群馬大学名誉教授の山口晴保先生。ですが、良質な睡眠と適度な運動は認知症の発症年齢を少しでも遅らせる手助けになるかもしれません。
教えてくれた人
山口晴保さん
Haruyasu Yamaguchi
医師、群馬大学名誉教授、認知症介護研究・研修東京センター長、日本認知症学会名誉会員。脳βアミロイド沈着機序をテーマに30年にわたり病理研究を続け、その後、臨床研究に転向。より実践的な認知症医療・ケアに取り組んでいる。著書多数
体にいい生活習慣が脳の健康維持にも効果的!
「認知症の発症には老化が密接に関係しています。体が老化しない人がいないように、脳も必ず老化していき、いつかは誰でも認知症になる可能性があります。例えば95歳以上では約8割の人がなります。特に高齢者の場合、認知症は“長生きの勲章”とポジティブにとらえる考え方を、家族や地域の人みんなが持つべきなのです」
残念ながら、〇〇を食べたら、〇〇をしたら認知症にならないという方法はないと山口晴保先生。しかし、適度な運動や食事の内容に気をつければ、発症年齢を少しでも遅らせる手助けになるかもしれません。
「ここで紹介する生活習慣は、寿命を延ばす生活習慣でもあります。長生きをすれば、その分、認知症になる可能性が高まるので、ちょっと矛盾してしまいますが…」
とはいえ、認知機能を維持し、健康な老後を過ごすために有意義な習慣です。漠然と認知症を恐れるのではなく、自分がどんな老後を過ごしたいかをポジティブにイメージして、今から笑顔の生活を実践していきましょう。
睡眠には、脳にたまった老廃物を流してくれる働きがあります。27の観察研究のメタ分析※で、睡眠障害がある人は、ない人に比べてアルツハイマー型認知症になるリスクが1.55倍に高まり、また睡眠時無呼吸症候群は認知機能が低下するリスクを26%高めるという報告が。
福岡県久山町で行なった10年にわたる追跡調査では、認知症リスクが低かったのが睡眠時間5~7.9時間の群、最も高かったのが5時間未満の群で、8時間を超えるとまた高くなることがわかりました。良質で適度な長さの睡眠を心がけたいもの。
※複数の統計的分析を収集し、いろいろな角度から比較したりする分析研究法
フィンランドで、中年期からの運動習慣の効果を検証した結果、週2回以上、少し汗をかく程度の運動を20~30分行うと、20年後のアルツハイマー型認知症の発症リスクが約3分の1に低減。
「軽度の運動によって脳由来神経栄養因子(BDNF)が増えることで、記憶に関する海馬神経細胞が増殖し、脳の毛細血管を作って血流が増えることがわかっています。また、脳内セロトニンが増えて、心が穏やかになるという報告も」。ウォーキングなどリズミカルな軽い運動を1日30分、が目安です。
写真/高橋ヨーコ 取材・原文/山村浩子