聴力低下の予防や、人とのかかわりを増やして孤立を防ぐなど、脳の健康寿命を延ばすために今すぐ実践したい習慣を、順天堂大学医学部名誉教授の新井平伊先生に伺いました。
孤立を高める聴力低下を予防する
「聴力が低下すると、コミュニケーション能力が低下します。すると人とかかわるのがおっくうになり、行動範囲が狭まる。やがて運動不足や意欲の衰えとして表れ、感情と知能への刺激が減り、脳が老化していく。これが聴力の低下が認知機能を低下させる図式です」(新井平伊先生)。
最近、聞き間違いが多くなった、後ろから呼ばれると気づかない、テレビの音や電話の話し声が大きいと指摘された…などがあったら要注意。
放っておかないで、医療機関で治療を受けて、補聴器などで調整を。
人とのかかわりを増やして脳を活性化する
「特に男性は定年退職したとたんに、認知症になってしまう人もいます。それは、ゆっくり進行していた病状を、脳の代償機構が意欲や責任感などでカバーしていたためと考えられます。こうした状況を防ぐためには、社会や人とのかかわりを持ち続けることです」。
それには、ボランティアに参加したり、人とかかわる趣味を持つことです。一人で行う計算ドリルやパズルなどよりも、ずっと効果があるそうです。
喫煙は血管に、飲酒は脳に直接ダメージを与える
喫煙は体のために“百害あって一利なし”ということは、すっかり浸透しています。
「しかし、脳の健康に限って言うと、タバコより悪影響があるのはお酒です。タバコはニコチンなどの有害物質が血管を傷つけるという間接的なものですが、アルコールは脳の神経細胞にダイレクトに影響を与えます」。
もの忘れが気になる場合には、毎日の飲酒をやめてみる…この試みが脳のためには必要です。
食事はバランスが肝心。特効薬的な食べ物はないと心得て
「これを食べたら認知症にならない、といった魔法の食べ物はありません」と新井平伊先生。
例えば、甘い物ばかり食べていれば糖尿病に、塩辛いものは高血圧症に、油が多ければ脂質異常症になりやすい…これは明白ですが、一方で脳にいいとされる食材を大量にとっても、それは単に栄養の偏りをもたらすだけです。
「食事はバランスよくとることが何より重要。なかでも昔ながらの和食がおすすめです」
教えてくれた人
新井平伊さん
Heii Arai
1953年生まれ。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と臨床を中心とした老年精神医学が専門。アミロイドPET検査を含む健脳ドックを導入した「アルツクリニック東京」院長。2021年に「健脳カフェ」設立
イラスト/midorichan 構成・原文/山村浩子