あごの歪みは加齢とともに進み、全身にまで悪影響をあたえます。あごを動かす仕組みと歪む原因を、歯科医の窪田 雅先生に伺いました。
「正常なあご」あってこそ真の健康と美がかなう!
あごは構造的に歪みを起こしやすく、体にあらゆる影響を及ぼすのは意外に知られていない事実。
「下あごは顎関節で頭蓋骨とつながっています。下あごの関節部分の突起は関節円板(骨より軟らかい組織)がクッションのような役割をして守られていますが、何らかの原因であごが歪んだまま咀嚼(そしゃく)していると摩耗します。それがさらに進行すると、上下のあごの骨が当たって痛みを感じることに。いわゆる顎関節症の症状が現れるというわけです」(窪田 雅先生)
アワエイジ世代以降は下あごの骨が下がって、おとがい(あごの先端)が前に出やすい傾向もあるそう。腰や膝と同様に、あごにもエイジングが起きているのです。
「後天的にあごが歪む原因は日常のちょっとした癖などさまざま。虫歯治療でよけいに削ったり、歯ぎしりなどですり減って歯の高さが低くなり、どんどん歪んでいくケースも多いですね。人間の体はどんな歯でも無意識のうちに嚙み合わせを見つける能力があるので、異常に気づきにくいのです」
この状態で咀嚼を繰り返すと歯や歯茎に負担がかかり、虫歯や歯周病になることも。でも、体への影響はそれだけではありません。
「体はつねにバランスをとろうとして動きますから、あごが歪めば首や背骨、腰、股関節、膝へと歪みが連鎖していきます。あごの歪みを治療して、肩こりや腰痛がなくなったなど、体の不調が改善される人も多いですよ」
こんなふうにあごは歪みます
あごの骨が下がって下の歯全体が前に出る症状と、上下のあごが左右にずれる症状があり、複合している場合も。また、片側の歯が低い場合は斜めに歪みます。この状態のまま嚙み合っていることもあるから注意が必要。
●正常なあご
顎関節で下あごの骨が安定した位置に収まり、すべての歯できちんと嚙める状態
●歪んだあご
あごの骨が下がって下の歯が前に出たり、上下の前歯の中心位置が左右にずれたりします
顎関節とあごを動かす筋肉
あごを動かすとき、頭の横にある側頭筋と、頰の下にある咬筋(こうきん)ほか細かい筋肉が連動して働きます。顎関節では下あごの突起部分が頭蓋骨のくぼみに収まり、間にある関節円板が骨を守りスムーズな動きを助けています。
あごが歪むおもな原因
多くは後天的な原因で、頰杖や足組み、重い荷物を肩掛けするなどのほか、片側の腕や脚に負荷のかかるスポーツや楽器演奏などでも。虫歯の治療やくいしばりなど、歯が原因で起こることもあります。
- ●左右アンバランスな生活習慣
- ●遺伝
- ●スポーツ
- ●楽器などの趣味
- ●くいしばり
- ●歯ぎしり
- ●過去の歯科治療
- ●虫歯や抜歯箇所の放置
あごが歪むと全身に影響が!
頸椎から背骨へと連鎖的に起こる歪みによる肩こりや腰痛、関節痛のほか、顎関節症や頭痛、血行不良による婦人科系の不調につながることも。口内では虫歯や歯周病、喉が狭くなることによるいびきなど。眉や口角などパーツのアンバランスやたるみも起こります。
お話を伺ったのは
窪田 雅さん
Masashi Kubota
クォードレイトデンタルオフィス院長。歯科医。東京歯科大学卒業後、東京女子医科大学病理学教室助手を経て、東京大学医学部大学院で法医学と薬学を学ぶ。1977年の開業当時からあごの治療に携わり、現在までに数多くの症例をみる。自分の歯を長く使えるようにするための、最適な治療を行うことが信条
撮影/小山志麻 イラスト/かくたりかこ 構成・原文/中込久理