認知症は親の世代の話だと思ったら大間違い。最近の研究で40代からの予防が大切なことがわかってきました。
監修
佐治直樹さん
Naoki Saji
国立長寿医療研究センター もの忘れセンター副センター長。兵庫県立姫路循環器病センター 神経内科(医長)、川崎医科大学脳卒中医学(特任講師・特任准教授)などを経て現職。研究内容は認知症のリスク因子と予防、腸内フローラとの関係
認知症を正しく知って早めの予防を
認知症は認知機能が低下して、日常生活にさまざまな支障が出てくる状態をいいます。
「その代表的なものがアルツハイマー型認知症です。脳の神経にアミロイドβ(ベータ)というタンパク質がたまることで、脳の一部が萎縮していく病気です。ほかに脳血管性認知症、レビー小体型認知症などがあります。
認知症の前段階にあたる『軽度認知障害(MCI)』では、まだ加齢によるもの忘れ程度に見えます。このMCIの人のうち、年間約10~15%が認知症に移行するといわれています」(佐治直樹先生)
この段階では、生活習慣病の対策が推奨されていますが、実はその前の健常な段階からの予防が重要であることがわかりました。
「アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβは、発症の約20年前から蓄積しはじめるという研究結果があるのです」
例えば、65歳で発症するとしたら、45歳から蓄積される計算です。
「認知症はまだ先のこと…と思うのは大きな間違い。40代から食事や生活習慣を見直して、予防していくことが大切です」
健康なときから脳の掃除を習慣に!
「現在、投薬治療が行えるのは、認知症と診断された人だけで、MCI(下項目参照)の人には使えません。しかもまだ根本治療の薬はなく、症状を軽減させて、進行を遅らせるものです。よって、少しでも早い段階から予防をすることが大切です。
アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβ(ベータ)、通称『脳のゴミ』は、発症する約20年前からたまりはじめるといわれており、予防のためには健常の段階から生活を改善して、脳にゴミをためない習慣を身につけることが重要です」(佐治直樹先生)
●元気な頃から対策を!
認知症はまだ根本的に治す薬はありません。まずは認知症の前段階であるMCIや健常な頃からの予防の重要性が呼びかけられています
- 認知機能健常……健常な段階から、食事や運動習慣を見直し、社会活動を積極的に行うなど、生活習慣の改善が大事
- 軽度認知障害(MCI)……記憶力や注意力の低下が見られる段階です。健康的な食事や運動を身につけ、脳が活性化する習慣を
- 認知症……投薬治療、脳の機能を維持するためのリハビリテーション、心地よく生活できる環境を整えるなど
食べ物を変えれば認知症予防におおいに役立つ
「世界的に権威のある『Lancet』という雑誌の2020年に発表された論文によると、認知症の原因となる危険因子のうち、12項目、約40%は生活習慣の改善でリスクが軽減するとあります。
そのうち約5%は高血圧、肥満、飲酒、糖尿病といった『食事』に関係するもの。つまり、生活習慣病を予防する食事習慣が、認知症の予防にもなるということです」。
毎日の食事が体をつくっていると考えれば納得です。
●認知症の危険因子の中の食事関連に注目!
表は認知症を誘発する危険因子の中で、「改善できるもの」を年代別に示したもの。特に中年期以降は、茶色の文字で示した高血圧や糖尿病などの生活習慣病、飲酒が関係しています。
これらは食事の悪習慣が原因であることが多いことから、認知症予防に食事の改善が役立つと考えられます。
※具体的な食事の改善方法に関して、この連載でご紹介していきます。
撮影/神林 環 スタイリスト/洲脇佑美 構成・原文/山村浩子