子どもがなりやすいイメージの食物アレルギーですが、大人になって初めて発症するケースが近年急増していることがわかってきました。医療ジャーナリスト増田美加さんが、アレルギー専門医の福冨友馬先生に「成人食物アレルギー」について取材しました。
大人になって初めて発症する人も少なくない
アレルギーというと真っ先に思い浮かぶのは、国民病と言われるほどの花粉症ですが、それと並んで増え続けているのが「食物アレルギー」です。
子どもの病気というイメージもありますが、大人になって初めて発症するケースが数多くあることがわかってきました。専門医が少ないため、間違った情報が多く出回っているこの領域で、長年診療を続けているアレルギー専門医の福冨友馬先生を取材。
どんなアレルギーが増えているのか、その対策とともに紹介します。
2010年に起きた旧「茶のしずく石鹸」事件を記憶している人は少なくないと思います。この石鹼を使ったために約2000人に、食物アレルギーが集団発生しました。
「あれは石鹼のアレルギーでは?」と思う人もいるかもしれません。なぜ食物アレルギーなのか?
実はこの石鹼に含まれていた加水分解小麦という小麦由来の成分が、使用した人に小麦アレルギーを発症させる危険性のあるものだったのです(下コラム1参照)。
「小麦アレルギーなら、小麦を食べなければいいのでしょう」と思うかもしれません。
しかし、私たちが口にする食品の多くに小麦成分が含まれています。パン、うどん、パスタはもちろん、しょうゆ、カレー、ハンバーグなど。
それらを食すことでアレルギー症状が現れ、日常生活の制限は非常に大きくなります。
Column 1
●旧「茶のしずく石鹸」事件とは?
旧「茶のしずく石鹸」を使ったために、もともと食物アレルギーがまったくなかった人でも小麦の入った製品が食べられなくなり、じんましんが出たり、顔が腫れ上がったり、呼吸困難で救急搬送されるなどの被害が全国各地で多発しました。
約2000を超す人が小麦アレルギーを発症。一時は意識不明になる人も出るなど深刻な社会問題になりました。
のちの研究で、この石鹼に含まれていたグルパール19Sという名の加水分解小麦成分がアレルゲンであることが判明。
それが目や鼻の粘膜や皮膚を介して体内に入り、その後、食べた食品に含まれていた小麦アレルゲンと反応して即時型小麦アレルギーを発症したことがわかりました。
子ども時代に起こらなかったアレルギーが突然起こるわけは?
「大人の食物アレルギーは、特定の食物が原因となり、唇や口の中、喉に腫れやかゆみの症状が出る口腔アレルギー症候群(OAS)が多くなっています。
また、稀に深刻なアナフィラキシーを起こすこともあります。
日本での有病率は正確にはわかっていませんが、成人の1~2%程度ではないかといわれています。
しかし、私が以前行った調査では大人の10人に1人は、特定の食べ物を食べたときにアレルギーの症状が出る、と答えています」と福冨友馬先生。
大人の食物アレルギーは、これまでアレルギーの症状がまったくなくても、誰にでも起こり得て、しかも予想が難しいといわれています(下コラム2参照)。
また、大人と子どもとでは、原因となる食物も大きく異なります(下コラム3参照)。なぜ、子どものときに起こらなかった食物アレルギーを、大人になって発症するのでしょうか?
Column 2
●大人の食物アレルギーを発症するリスクがあるのは?
ひとつでも当てはまると、大人の食物アレルギーの発症リスクがあります。
- 花粉症である
- 自分または肉親がアレルギー体質である
- 子どもの頃にアレルギーがあった
- 食生活が乱れている(偏っている)
- 過度のきれい好きである
- 最近、日光を浴びていない
- 調理業、食品加工業で食物を扱う仕事をしている
- 料理などで食材に触れると手がかゆくなる
Column 3
●子どもと大人とは原因となる食物が大きく違います!
【原因物質と合併の仕方】
子どもの食物アレルギーは、卵、牛乳、小麦、魚卵などが大多数ですが、大人の場合は果物、野菜(豆乳・大豆を含む)が多く、次に小麦、甲殻類のほか、多種多様な食物がアレルゲンになります。
子どもの場合は、卵も牛乳も小麦粉も、といった具合に複数の食物アレルギーになることが多いですが、大人は複数の食物でアレルギーが出るケースは少ないのが特徴です。
いつ、どこで、誰に起こるかわからない大人の食物アレルギー。
「メカニズムのひとつとして、ある食物を毎日のように食べ続けるうちにアレルギーになることがあります。この理由は現代の医学ではわかっていません。
もうひとつは、食べること以外のアレルギーです。
花粉、ダニ、化粧品、手で触る食品などの環境中に存在するアレルゲンに触れることで、目や鼻、粘膜、皮膚などにアレルギーを起こします。
これら環境中のアレルゲンと食物アレルゲンの形が似ている場合、その食物を食べることでアレルギー反応を起こしてしまうのです。これを交差反応と言います」
つまり、花粉症の人は、その花粉とアレルゲンの形が似ている食物(野菜・果物・大豆)をとると、体はアレルゲンである花粉と勘違いし、アレルギー症状を起こす可能性があるのです。
花粉症は女性の有病率が高く、野菜や果物の摂取機会が多いのも女性なので、注意が必要です。
お話を伺ったのは
増田美加さん
Mika Masuda
1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行う。著書に『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか多数
国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター
アレルゲン研究室長
福冨友馬さん
Yuma Fukutomi
広島大学医学部卒業。医学博士。2006年より国立病院機構 相模原病院アレルギー科勤務。’14年より順天堂大学連携大学院客員准教授併任。日本アレルギー学会(代議員)アレルギー指導医。専門は成人食物アレルギー、アナフィラキシーの臨床、成人アレルギー疾患の疫学研究など
『大人の食物アレルギー』
(集英社新書)
貴重な大人のアレルギー専門医として16年診療し続けている福冨先生。その豊富な知見から得た情報は、これまでの食物アレルギーのイメージを大きく変えるものです
イラスト/堀川理万子
※後編では、「食物アレルギーの治療方法」について、福冨友馬先生に教えていただきます。