特に40歳を越えた頃から、急に人によって見た目の年齢に大きな差が出てくると思いませんか? 確かに、肌のシワやハリ、ツヤに個人差が大きくなってきます。
「それは体の中の血管でも起こっています。実は肌と血管はとても似たところがあります」(池谷敏郎先生)
「皮膚は表面に水分を保持して、外部からの異物の侵入を防ぐ、バリア機能があります。同じように、血管の内壁(流れる血液に触れる面)には、「血管内皮細胞」という薄い細胞の膜に覆われています。これが皮膚の表皮のように、血管を守るバリア機能を果たしています。
血圧をコントロールしたり、傷ついた血管の修復をする働きもあります。血管が原因の病気のほとんどは、この血管内皮細胞が傷つくことで引き起こされます。血管を若く保ち、病気を防ぐためには、この血管内皮細胞を健康に保つことが大切です」
肌と同じように、血管も年齢とともに確実に老化はしていきます。しかし、食事や生活習慣、運動習慣などによって、そのスピードには個人差があります。
「血管年齢」が若くても「血管力」が高いわけではない!
「血管年齢」という言葉を一度は聞いたことがあるでしょう。これは「血管のしなやかさ」をみる評価です。一方、池谷先生が提案している「血管力」は、「血管全体のしなやかさ」「内壁のなめらかさ」「血液がスムーズに流れているか?」などを総合的にみた血管の状態を表しています。
「血管年齢の検査だけでは、血管の壁にできた、それほど硬くない段階の動脈硬化は見逃されてしまう可能性があります。こうした血管の内壁の状態をみるのに有用なのが、頸動脈(けいどうみゃく)エコー検査です。首の動脈に超音波を当てて、動脈の状態、血管の内腔にプラークなどが生じて狭くなっていないか? を調べることができます」
病院での「頸動脈エコー検査」がおすすめですが、簡単なセルフチェックでも、そのリスクはある程度わかります。あなたの血管力はどのレベル?
生活習慣からみる血管力セルフチェック
当てはまる項目のリスク度を合計してください。
初期の動脈硬化を見つけることが大事!
血管力の低下が心配になった人は、すでに「動脈硬化」が始まっているかもしれません。それでは、よく聞くこの動脈硬化とは、そもそもどんなものなのでしょうか?
「一般的に動脈硬化というときは、アテローム性動脈硬化のことを指すことが多いですね。これは血管壁の内側にコレステロールなどの脂肪からなる、ドロドロした粥状物質(アテローム)がたまりコブのようなものができて、内腔を狭くするものです」
動脈硬化のできるメカニズム
①血管内皮細胞が傷つき、単球が侵入する。
加齢や高血圧、高血糖、脂質代謝異常などで、血管内皮細胞が傷つきます。そこに単球(白血球)がくっつき、壁の内側に侵入して、マクロファージに変化します。
②異物が侵入する。
血管内皮細胞のバリア機能が弱まり、LDLコレステロールが侵入し、これが活性酸素の影響で「酸化コレステロール」に変化します。
③免疫システムが発動。
酸化コレステロールになると、体の免疫システムが発動。マクロファージが酸化コレステロールを取り込み、これが「泡沫細胞」となり、脂肪のかたまりとなって血管壁内に蓄積します。やがてコブのように隆起したものが、「プラーク」です。おかゆに似ているので「粥腫(じゅくしゅ)」とも呼ばれています。
④血管内壁が狭くなる。
できたばかりのプラークはとてももろく、血管の収縮の刺激などで、一部が破れてしまうことがあります。すると、これを修復するために血小板が集まり、血のかたまりが「血栓」となります。血栓は生じた部分の血管を詰まらせるだけではなく、血液の流れに乗ってその先の動脈を詰まらせることもあります。脳で詰まれば「脳梗塞」、心臓で詰まれば「心筋梗塞」です。
「この小さなプラークの初期段階では、血管内腔がある程度保たれるため自覚症状がありません。血管年齢検査(血管のしなやかさ)だけでは検出されにくく、発見しにくいのが特徴です。しかも小さなプラークでも破れやすいので、無症状であっても突然、急性心筋梗塞などの血管事故を発症する可能性があります。頸動脈エコー検査なら、初期の段階から血管壁のプラークを確認できるので、無症状の動脈硬化を発見することができます。血管の健康が心配になった人は、一度検査を受けてみることをおすすめします」
【教えていただいた方】
池谷医院院長。1962年生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。1997年に、池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科・循環器科。現在も臨床現場に立つ。心臓、血管、血圧などの循環器系のエキスパート。
【池谷敏郎先生の著書】
「血管を鍛える」と超健康になる!(三笠書房) ¥649
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子