40歳以上では、なんと約3人に1人が血糖値異常
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度のことです。
「食事で糖質をとると、胃で消化吸収され、ブドウ糖になって血液に運ばれます。すると、血糖値が上がり、それを合図に、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されて、ブドウ糖が体の細胞に取り込まれます。これはエネルギー源として使われ、余剰分はグリコーゲンへ変換されて、肝臓や筋肉などに貯蔵されます。すると血糖値は下がります。健康な人の場合の血糖値は、食事後45~120分くらいにピークになり、2~3時間後には元の値に戻ります」(山田悟先生)
しかし、糖質過多の食事を続けているとどうなるのでしょう?
「インスリンを分泌するすい臓が疲弊して、機能が低下。食後の血糖値のピークが高くなるとともに、血糖値が下がりにくくなります。この状態が10年前後続くと、さらにすい臓が疲弊して、空腹時でも血糖値が高くなるようになります。この状態から数年で糖尿病になります。
正常値ではないけれども、糖尿病の診断基準には至っていない人のことを境界型耐糖能障害、または糖尿病予備軍などと呼びますが、予備軍の時点で心臓病が増えるとされているので、糖尿病に至っていなくても治療が必要です。
日本では、『糖尿病が強く疑われる人(糖尿病)』と『糖尿病の可能性を否定できない人(予備軍)』を合わせると、国民の約6人に1人、40歳以上では約3人に1人といわれています」
また、高血糖になると、血管が傷ついて動脈硬化を引き起こし、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こすことも。命に直結する事態にもなりかねません。
「また、インスリンは血糖値を下げる重要な役割がありますが、一方で脂肪を蓄える働きもあります。そのため、インスリンがつねに分泌されている状態が続くと、肥満につながります。すると、さらにインスリンの働きが悪くなる…という、悪循環が起こります」
日本人は太らなくても糖尿病になる
糖尿病になる人というと、男性の肥満体のイメージです。欧米人には巨漢といえるくらい太った人が大勢見受けられます。そこで、「私は欧米の人のように太っていないので大丈夫!」と思ってしまいがちです。
「実は、それは大きな間違いです。日本人はそれほど太っていない人でも糖尿病になります。その違いは、欧米人は糖質を大量にとっても、インスリンが大量に分泌されるので、糖を脂肪細胞にどんどんため込みます。一方で、日本人は、それよりも少ない量の糖質でも、すぐにインスリンの分泌量が追いつかなくなるのです」
よって、欧米人は太ってから糖尿病になるのに対して、日本人はそれほど太っていなくても糖尿病になってしまいます。実際、日本人の糖尿病患者の約半数は肥満体ではないそう。
食後高血糖は、2人に1人は起きている!
「健康診断で検査するのは、空腹時血糖値です。しかし、本当に怖いのは、空腹時ではなく、食後高血糖です」と、山田先生。
「健康診断の結果に問題がなくても、安心はできません。というのも、血糖異常が健康診断の数値(空腹時血糖値)に表れるのには、10年ほどかかるからです。その前から食後高血糖は生じているといわれています。健康な人でも、食後にはある程度、血糖値は上がります。しかし、その数値が140mg/dLを超えると、食後高血糖と判定されます」
精密検査にはブドウ糖負荷試験が行われます。これは10時間以上絶食した後、朝、空腹のまま来院し、空腹のまま採血して血糖値を測定。続いて、ブドウ糖75gを溶かした水を飲んで、30分、1時間、2時間後にそれぞれ採血して血糖値を測定します。その数値で糖尿病、予備軍、正常かがわかります。また、将来、糖尿病になりやすいかもわかるので、不安な人は行ってみるといいでしょう。
判断基準
<糖尿病が強く疑われる人>
空腹時血糖値126mg/dL以上、食後血糖値が200mg/dL以上
HbA1cが6.5%以上
<糖尿病の可能性を否定できない人>
空腹時血糖値110~125mg/dL、食後血糖値が140~199mg/dL
HbA1cが6.0%以上、6.5%未満
*Hb(ヘモグロビン)A1c(エーワンシー)は、血液中のブドウ糖がヘモグロビンと結合したもの。ヘモグロビン全体に対して何%あるかを示したもので、過去1~2カ月の血糖値の状態がわかります。
「食後に眠気、倦怠感、集中力の低下などが起こるようなら、食後高血糖を起こしている可能性大! 先ほど、血糖値異常者は日本人全体で6人に1人とお伝えしましたが、これは空腹時での採血から得られた結果にすぎません。血糖値検査を受けた全員にブドウ糖負荷試験を実施した中国人のデータでは、成人の2人に1人が血糖値異常者でした。おそらく、日本人でも食後血糖値に目を向ければ、同じ程度と考えられるので、他人事ではありません」
肥満と老化の元凶は血糖値スパイク!
また、問題になるのは、血糖値が急上昇したあと急激に下がることです。
「これを血糖値スパイクといいます。血糖値が急激に上がると、すい臓は慌てて少し遅れて、インスリンを過剰に分泌します。すると血糖値が急激に下がります。こうして血糖値の乱高下が起こるのです。血糖値が一気に下がると、脳には危険信号として伝わり、低血糖にならないように、強い飢餓感としてインプットされます。すると、もっと糖質をとらなければ…と、食べすぎてしまうのです。結果、肥満になります。
さらに、血糖値の乱高下はそれ自体が酸化ストレスを生み、血管を傷つけ、動脈硬化を促進。最近の研究では、認知機能の低下にもかかわっていることがわかっています」
健康やせやアンチエイジング、健康維持のためには、この血糖値スパイクを起こさないことが大切! それにはロカボ食が有効な食事法なのです。
※ロカボ食とは?
1食20g以上40g以下で糖質を摂取し、これで1日3食と、それとは別に嗜好品で1日糖質10gを摂取する、緩やかな糖質制限食です。
我慢するというより、工夫して糖質を上手にとり、楽しく食べようという考え方でもあります。
*主食に含まれる糖質量/白米ご飯半膳で糖質約28g、食パン8枚切り1枚で約20g、パスタ半皿で約34g、ラーメン麺半量で約28g、そば半量で約20g。
ちなみに、食後血糖値は血糖自己測定器を購入すれば自宅でも計測できます。購入は高度管理医療機器等販売資格を持っている薬局やドラッグストア、またはネットで。価格は8000~15000円が目安です。または、測定器を買わなくても、検体測定室のある薬局やドラッグストアで、500円程度で測定してもらえます。
「一度、食後血糖値を測定して、自分が何を食べたときに血糖値が上がるのか、血糖値の乱高下があるのかなど、その傾向を知っておくと、ロカボ食を実践するモチベーションになりますよ」
【教えていただいた方】
北里大学北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医。多くの糖尿病患者と向き合う中、カロリー制限中心の食事療法では、食べる喜びが損なわれている現実に直面。患者の生活の質が高められる糖質制限食に出合い、積極的に治療に取り入れている。著書多数。
取材・文/山村浩子