【教えていただいた方】
北里大学北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医。多くの糖尿病患者と向き合う中、カロリー制限中心の食事療法では、食べる喜びが損なわれている現実に直面。患者の生活の質が高められる糖質制限食に出合い、積極的に治療に取り入れている。著書多数。
ロカボ食は美容、健康、アンチエイジングの救世主!
「私は長年、糖尿病の患者さんの治療を行ってきました。以前には治療食としてカロリー制限食を採用していましたが、効果はいまひとつでした。そこで登場したのが、制限するべきは“糖質”であるという視点です」(山田悟先生)
これが、新しい糖質制限の食事法=“ロカボ食”(ローカーボ=低糖質からの造語)です。多くの医学論文やデータにより実証された、きちんとしたエビデンス(科学的根拠)に裏打ちされた方法です。
「ロカボ食の特徴は、“緩やかに糖質を制限する”ことです。この食事法は、食後の血糖値を上がりにくくすることが大きな特徴です。スタートは糖尿病の治療食でしたが、美容、健康、アンチエイジング効果も期待でき、特に体が大きく変化する40代、50代の更年期世代の女性に、ぜひとも実践してほしい食事法です」
ロカボ食に期待されること
●痩せて、締まった体になる
●肌がきれいになる
●血糖値が改善する
●血中脂質値が改善する
●血圧が改善する
ロカボ食はいかに我慢するかではなく、いかに食べるか!
かつての糖質制限食では、米飯や麺類はダメ、いも類は要注意、デザートもあきらめて! といった頑張って我慢する方法が主流でした。これでは長く続かず、やめたらその反動であっという間に元に戻った、さらに太った…そんな人が続出しました。
「挫折する人の多くは、やり方が間違っているからです!」と、きっぱりと山田先生。
ロカボ食って?
「糖質制限食にはさまざまなやり方があり、ケトン産生を促す方法(=ケトン体ダイエット※)では、1日50g以下という、かなり厳しい糖質の制限が課せられます。これだと食べられる野菜もかなり限定されます。一方、私の提案している方法は、1食20g以上40g以下で糖質を摂取し、これで1日3食、それとは別に嗜好品で1日糖質10gを摂取します。世界的に共通の糖質制限ルールは糖質を1日130g以下というものですが、これに準じているだけでなく、毎食後の血糖値の上昇を抑制するため、1日ではく、1食で糖質量を定義しているのがロカボの特徴です」
※ケトン体ダイエット(ケトジェニックダイエット):糖質を極端に制限すると、脂肪が分解されてケトン体がたくさん作られ、体がこれをエネルギー源として使うことで痩せるというダイエット方法。
糖質を完全にオフにする必要はありません!
「ロカボ食なら、主食やスイーツも量は控える必要がありますが、やめる必要はありません。しかも、タンパク質やオイルなどを増やして、お腹いっぱい食べてよいのです。肉、魚や大豆製品(豆腐や湯葉など)をしっかり摂取します。もちろん野菜も食べますが、野菜は種類によっては糖質量が多いので、1種類に偏らないようにします。中には野菜中心の食事を目指して、空腹感にさいなまれる人もいますので、野菜をメインの食材にしてはいけません。このロカボ食のルールに沿って行っていれば、フラフラしたり、低血糖を起こすことはありません。また、ストイックに頑張りすぎて、つらい食事にする人をなくすため、下限も設けています。少ない糖質量の中で、主食やスイーツもちゃんと楽しむことを推奨しているのが、もうひとつの大きな特徴です」
ロカボ食のルール
●朝、昼、夜の3食で、それぞれ下限20g~上限40gの糖質をとる(合計1日70~130gまで)。
*主食に含まれる糖質量/白米ご飯半膳で糖質約28g、食パン8枚切り1枚で約20g、パスタ半皿で約34g、ラーメン麺半量で約28g、そば半量で約20g。
●3食の食事とは別に、間食として1日糖質10gをとる。
●肉、魚などのタンパク質と脂質をしっかりとる。
●野菜もしっかりとってよいけれども、彩りよく好き嫌いなく満遍なく!
●お腹いっぱい食べる。
●カロリーは気にしない。
カロリー制限よりも確実に血糖値を下げられる!
実際に、日本人の2型糖尿病の患者24人をふたつのグループに分けて、それぞれロカボ食とカロリー制限食を実践した研究結果があります。それぞれ1食分を、ロカボ食は糖質20~40gに、カロリー制限食は体重1kgあたり20~25kcal/日に制限して、6カ月行いました。明らかにロカボ食のほうに血糖値や中性脂肪値の改善が見られました。
ロカボ食とカロリー制限食の6ヵ月の比較推移
*HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)値は、採血時点から過去約1~2カ月間の平均的な血糖値を反映する検査値。糖尿病の診断や疫学調査などに広く使われています。
「このように、ロカボ食の効果はデータが実証しています。しかも、無理のない範囲で、食事を楽しみながら実践できることが大きな強みなのです」と山田先生。
「糖質制限というと、我慢することだと勘違いする人が多いようですが、何かをあきらめるのではなく、『いかに工夫して食事を楽しむか?』 なのです。確かに、それには一定の努力は必要です。
しかし、一度ルールに沿った、自分なりの工夫の方法を身につけてしまえば、まったく苦痛はなく、一生、健康的に食事を楽しむことができます」
取材・文/山村浩子