いちばんやってはいけないのが甘い物をやめること!
「私がロカボ食をすすめるうえで必ずお伝えするのが、これは、“いかにやめるか”ではなく、“いかに食べるか”を考えて実践する食事法だということです。ですから、甘い物が大好きな人が、いちばんやってはいけないことは、スイーツを我慢して食べることをやめてしまうことです」
ロカボ食のルールは1日の糖質を70~130gに抑えることです。それを3食で割って、1食当たり20~40g、残りの10gは間食に当てます。スイーツや小腹が空いたときの間食は10gの範囲になります。
「なかには、『10gの商品を探さなければならないのなら、面倒くさいのでスイーツをやめます』と言う患者さんがいるのですが、我慢とか食べないといった選択肢は、せいぜい3カ月しか継続できません。半年後には完全に元の食事に戻ってしまうだけです。最初は少し面倒かもしれませんが、選び方や工夫の仕方を把握しましょう。慣れてしまえば、甘い物を楽しみながら糖質制限はできます」
では、糖質10gを通常のスイーツで見てみましょう。
ショートケーキ約1/4個、ケーキドーナツ約1/3個、どら焼き約1/3個分です。こんな量では物足りないという方、どうぞご安心ください。あとで山田先生の工夫のお話があります。
また、知っておきたいのは、こうした甘い物だけでなく、せんべいやあられは米が原料なので糖質は高めだということです。1枚(22g)当たり糖質量は約8.87gもあります。甘くないからといって安心しておせんべいを食べて、血糖値を悪化させる糖尿病患者さんは少なくないといいます。
「ケーキも和菓子も砂糖を使っているので、糖質は高いのですが、卵や生クリーム、バターなどの油脂を含有しているケーキや洋菓子のほうが血糖値は上がりにくいのでおすすめです。その中でも私が好きなのが、プリンやチーズケーキ、シュークリームです」
「私がおすすめし、また自分でも実践しているのは、ロカボの考え方に準拠している市販品のスイーツを選ぶことです。現在はコンビニでもオリジナルのロカボスイーツが充実しています。探してみてください。また、合成甘味料を使用して自分で手作りするのもいいでしょう」
合成甘味料とは、化学的に合成されて作られた甘味料。自然界に存在する糖アルコールと人工甘味料とがあり、いずれも低カロリーもしくはゼロカロリーで甘味を感じさせる性質があります。砂糖の代替品として、低カロリー・カロリーゼロとうたった製品に広く活用されています。
「人工甘味料というと、体に悪いイメージを抱く人は多いのですが、日本でよく使われている、糖アルコールに分類されるエリスリトールは、カロリーがほぼなく、消化吸収されてそのまま尿で排泄されるので、血糖値が上がりません。それでいて、砂糖の約70%の甘さがあります。欧米でも、摂取量の上限を設定する必要のない安全な食品とされていて、安心して使えます」
「最近、血中エリスリトール濃度が高い人で心臓病や脳卒中が多いという論文が発表されて話題になったことがあるのですが、この論文の著者たちは、エリスリトールが自然界に存在するということを全く理解していないようです。実は、わずかな高血糖であっても血液中のエリスリトールの濃度が著明に増加することが知られています。つまり、単に血糖管理の悪い糖尿病の人では心臓病や脳卒中が多いという当たり前の話にしか思えないのです」
なお、料理の苦手な山田先生でも簡単にできる手作りスイーツがコーヒーゼリー。コーヒーに合成甘味料、粉ゼラチンを加えて固め、乳脂肪分の高い生クリームをたっぷりトッピングして食べます。
調味料としても人口甘味料は優秀!
また、糖質制限食では、砂糖やみりんを使った「甘辛い煮物」も避けたいリストに入っています。実は調味料にも糖質の高いものがあるので、知っておくとよいでしょう。
それは、砂糖を筆頭に、はちみつ、みりん、トマトケチャップ、とんかつソース、カレールウなどがあげられます。これらの使用を制限したときに、特に煮物などで物足りなさを感じるのが甘味です。そんなときにも合成甘味料が活躍します。
塩、しょうゆ、味噌など塩分の多い調味料で味つけすると、米飯などの主食が欲しくなります。合成甘味料に加え、ハーブ・スパイスなどを上手に使って、調理する習慣をつけましょう。
「『やめればいい、減らせばいい』という発想では、必ず失敗します。ロカボ食を続けるためには、いかにタンパク質と油脂でお腹いっぱいにし、甘い物も主食も楽しむか、が大切! 少し頭を使って考えることが必要ですが、慣れてしまえば楽しい食生活を送ることができます」
【教えてくださった方】
山田悟さん
北里大学北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医。多くの糖尿病患者と向き合う中、カロリー制限中心の食事療法では、食べる喜びが損なわれている現実に直面。患者の生活の質が高められる糖質制限食に出合い、積極的に治療に取り入れている。著書多数。
北里大学北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医。多くの糖尿病患者と向き合う中、カロリー制限中心の食事療法では、食べる喜びが損なわれている現実に直面。患者の生活の質が高められる糖質制限食に出合い、積極的に治療に取り入れている。著書多数。
取材・文/山村浩子