腸の健康が大事…そうはいっても、肉眼で腸の状態を確認することはできません。そのバロメーターになるのが「大便」です。便を押し出す「ぜん動運動」がしっかり働き、腸内細菌が元気に活躍しているかは、毎日の便が語ってくれます。
犀星の杜クリニック六本木院長。日本消化器病学会専門医。2022年に開設したクリニックでは、再生医療を主軸にした、生理活性物質を用いた治療を行う。著書多数
あなたの腸の状態は?
腸の動きをチェック!
あてはまる項目数を数えてください。
●食事
野菜はあまり食べない
肉が好きでよく食べる
朝食を抜くことが多い
食事の時間が不規則
早食いの傾向がある
満腹になるまで食べてしまう
お酒が好きでたくさん飲む
週の半分以上は外食する
●生活習慣
朝起きたとき、空腹を感じない
一日の運動時間が30分に満たない
つねに仕事や家事に追われている
イライラしたり、ストレスを抱えがち
やる気が出ない、落ち込みやすい
入浴をシャワーですませることが多い
肌あれや吹き出物がなかなか治らない
睡眠の質が悪いと感じる
●便の状態
排便が毎日ない
時々お腹をこわし、便が緩くなる
排便のあとすっきり感がない
いきまないと便が出ない
便がいつも硬めですぐ水に沈む
便の色が暗い(こげ茶や黒っぽい)
便やおならが臭い
おなかが張って苦しい
【チェック項目数】
- ・0~5個 元気腸
- ・6~15個 お疲れ腸
- ・16個以上 停滞腸
この項目はすべて腸に悪い習慣や兆候です。たくさんチェックがついた人は今すぐ生活習慣の改善を!
腸の動きは生活習慣次第!
腸が元気に動いているかどうかは、下で紹介する便の形状に加え、食事内容や排便の状態、生活習慣でも推測できます。上のチェックリストでチェックがついた項目が、0~5個ならぜん動運動も良好です。6~15個は腸が少しお疲れで、動きは滞りがち。
特に運動習慣のない人は腹部をねじる体操などで、腸に刺激を与え動きをサポートしましょう。16個以上の人は腸がかなり停滞していそう。「簡単おしゃれな美腸レシピ」のような食事内容を見直すことを含め、積極的な生活習慣の改善が必要です。
便は腸での滞在時間で変わる!
「大便は消化されない繊維質、未消化のタンパク質や脂質、腸内細菌の死骸、粘膜上皮の剝がれたものなどで構成されています。硬い便の場合は、大腸での滞在時間が長く、水分が少なくて悪玉菌が増えるので、ますますぜん動運動が低下する悪循環に。水や泥状の場合は、辛いものなどの刺激でぜん動運動が活発になっている、もしくは細菌やウイルスの感染も考えられます」(川本徹先生)
●便の状態で健康をチェック!
1コロコロ便
うさぎの糞(ふん)のような、小さく硬く、色は暗めの茶色。便秘の人に多い便
2硬い便
コロコロの便が短くつながった便。かなりいきまないと出ない状態
3やや硬い便
水分が少なめで、表面にひび割れの入った1本の便。色は茶色で水に沈みます
4普通便
適度なやわらかさでバナナ状。明るい茶色~黄土色。水に浮きます
5やややわらかい便
半分くらいが固形で水分がとても多い便。明るい茶色~黄土色をしています
6泥状便
泥のようにふにゃふにゃで、形にならない便。明るい黄土色をしています
7水様(すいよう)便
固形物を含まない完全に液状の便。薄い黄土色。ひどい下痢の状態です
3~5が正常の範囲。それ以外は、腸はかなりお疲れ状態。生活習慣を見直しましょう
食べ物により腸での滞在時間は違う
食べたものはいつ便になるのか、気になったことはありませんか? 「便になるまでの時間は食事の内容で変わり、個人差もあります。例えば、辛いものを食べた翌日、便が緩くなることがあります。これはカプサイシンという辛味成分がぜん動運動を刺激したり、激辛の場合は粘膜障害を起こすからです。
逆に排出が遅くなるのは、肉と柿が代表的。肉は繊維質が少なく便の量を増やさないため、ぜん動運動の促進につながらず、柿は含まれるタンニンがぜん動運動を抑える働きがあるため、どちらも食べすぎると便秘になります」
●食べたものが排泄される時間
- ・小腸滞在 約5〜9時間
- ・大腸滞在 約12〜20時間
- ・食べて出るまで 約24〜72時間
イカ墨の料理を食べると、どのくらいで出てくるかの実験ができます。一度試してみては?
腸は病原体侵入の最後の砦
「消化器官はさまざまな防衛システムによって、病原体を体内に侵入させないようにしています。まず口の中では唾液で、胃では強力な胃酸で殺菌。それでも小腸や大腸までやってくることがあります。腸はウイルスや病原菌をやっつける最後の砦といえます。サルモネラ菌や黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌O157などが有名です。
そんなときは、腸での滞在時間をできるだけ短くして、早く排出しようと下痢を起こします。小腸で起こる下痢は便が大量なのが特徴。一方、大腸の下痢は1回の排便量が少なく、排便回数が増え、便の形状は粘膜とともに血液が混じることがあります。医者は食べてどのくらいあとで症状が出たか、血便の有無などで、病原体の特定や診断の手がかりにしています」
腸内細菌は多様性が重要
腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌があるといわれています。「しかしDNA解析が進むにつれて、必ずしも名前通りではないことがわかっています。悪玉菌のグループでも体によい短鎖脂肪酸を産生する菌もいます。
日和見菌は最初から善玉菌に加勢するものと、悪玉菌に加勢するものとに分かれている可能性が高く、日和見菌という言葉は使われなくなっています。重要なのは、腸内細菌の多様性とそのバランスであるというのが最新の見解です」。ただし、ここではわかりやすいように、あえて善玉菌、悪玉菌と呼んでいます。
●悪玉菌が増えると高まるリスク
- ・肥満
- ・糖尿病
- ・高血圧
- ・アレルギー
- ・動脈硬化
- ・がん
- ・うつ
- ・認知症
腸が原因でなる病気は多岐にわたります。全身の健康の約9割と関係しているともいわれています
便秘症の基準は人それぞれ
戦前の日本人の便の量は、平均400gあったそうですが、現在は200gにまで減っているのだといいます。「それは、便量を増やす食物繊維の摂取量が大きく減り、肉中心の欧米型の食事の定着が関係しているといわれています。こうした食事の変化は、便秘症の人が増えている背景にもありそうです。
便秘症の基準は学会などにより異なりますが、2~3日に1回の排便でも便の状態が普通で、苦痛を感じなければ便秘とはいいません。また、毎日排便があっても、便が硬かったり、残便感がある場合は便秘といえます。頻度ではなく、本人が『すっきりした!』 という感覚が大切です」
ちゃんと動く腸が健康のカギ
「健康な腸とは、善玉菌などのよい腸内細菌がイキイキしていて、ぜん動運動がきちんと行われていることが重要です。ぜん動運動とは、食べたものを消化して、腸が伸びたり縮んだりを繰り返して腸内を移動させ、体外へ排出する動きです。この動きが悪いと便秘になり、速すぎると下痢になります。
ぜん動運動が弱いと大便が腸で長く滞在するため、悪玉菌が増え、ますます腸の状態が悪くなります。腸内細菌と腸の動きは密接に関係しているのです。食事に気をつけているのに、便秘が改善しないという人は、ぜん動運動を意識してみましょう。善玉菌が喜ぶ食事に加え、ぜん動運動を司る自律神経を整える暮らしの実践が、その手助けになります」
イラスト/かくたりかこ 構成・原文/山村浩子