治療の95%がセルフケアと歯垢・歯石除去
虫歯の治療の知識はそれなりにある人でも、歯周病ってどうやって治すの? そんな素朴な疑問を持つ人も少なくないのでは?
「歯科医で行うことは、レントゲン検査で顎の骨の状態を見て、動揺度検査で歯がグラグラしていないか? 歯周ポケット検査で、歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)の深さを測り、進行具合を総合的に確認します。治療計画の中心になるのは、磨き残しのチェック。つまり患者さんが自分自身で歯周病を治していく力がどの程度あるかという点が鍵になります。
歯周検査の結果、歯周病であると診断されたら、進行状況にかかわらず、最初に行われるのが『歯周基本治療』です。患者自身が行うためのブラッシング指導と、プロによる歯垢や歯石を除去するプロフェッショナル・ケアが主体になります。
まず、スケーラーという器具などを使って、歯面に付着した歯垢、歯や根の表面の歯石(歯垢にミネラル成分などが沈着し固くこびりついた塊)を除去するスケーリングを行います。スケーラーには手用や超音波スケーラー、エアスケーラーなどがあります。
そして、歯垢を取り除くデブライドメントを行います。専用器具を使って、歯周ポケットの中まで徹底的に取り除きます。
歯周病の治療は何より自宅で行うセルフケアがとても重要です。毎日の正しい歯磨きを続けて歯垢を残さないようにし、歯科医院では自分で取りきれない歯石を除去し、セルフケアの効果が最大限発揮できる環境をつくっていきます。これを繰り返していると、軽度な歯周病ならほぼ改善します」(照山裕子先生)
歯肉を切開して深いところの歯垢を取る「フラップ手術」
「歯周基本治療」で歯周ポケットが浅くならず、炎症が治まらない場合は、「歯科外科治療」を行います。
「中等度以上に進行して、歯周ポケットに治療機器が届かない場合は、歯茎を切開して根面を露出させ、奥深くにたまった歯垢や歯石を目視で確認しながら除去する方法がとられます。これをフラップ手術といいます。こうした処置の後、セルフケアがきちんとできていれば、これ以上の歯周病の進行が抑えられます」
破壊された歯槽骨を回復させる「歯周組織再生療法」も!
「しかしながら、一度、破壊されてしまった歯槽骨(歯を支えている骨)は自然に回復することはありません。そんな失われた組織を、できる限り元に近づけるような治療に『歯周組織再生療法』があります。いわゆる再生医療です」
この治療を適用するには細かな条件があります。軽度で歯槽骨が十分に残っている場合は適用外。破壊された骨の範囲が広すぎるといった重度歯周病の場合も同様です。残っている骨の形態によって異なるので、専門医とよく相談しましょう。
歯周組織再生療法は3種類
●GTR法
歯周ポケット内の歯垢や歯石を取り除き、骨がなくなってしまった部分に「メンブレン」という人工膜を挿入することで、歯周組織(歯槽骨や歯根膜など)の再生を誘導します。保険診療も可能です。
●エムドゲイン法
歯肉を剝離して、歯根にこびりついた歯石や壊死した歯肉を除去した後、ゲル状の薬剤(生後間もない豚歯胚から抽出したタンパク質の一種)を塗布することで、骨の再生を促す方法。世界的に長期にわたり使用されているため臨床実績が豊富な治療といえます。自由診療になります。
●リグロス
日本で開発され、再生の効能が認められた世界初の医薬品。リグロスの成分は細胞を増やす成長因子で、この作用により歯周病で破壊された歯周組織の再生を促進します。同じ成分は、すでにやけどや床ずれなどの治療に使用されています。2016年に保険適用されました。
「これらの再生医療は、すべての歯周病患者さんに行えるわけでなく、病気の進行具合や溶けた骨の形態などにより制限があります。日本歯周病学会などで認められた専門の歯科医を受診し、よく確認をしたうえで治療を受けることをおすすめします」
歯周病は進行してしまうと治療する方法は限られてきます。できるだけ早い段階で治療を始めるのがベスト。歯磨きのときの出血がなかなか止まらない、歯茎が腫れている…といった症状があったら、すぐに歯科医を受診しましょう。
【教えていただいた方】
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子