大人の歯列矯正には2種類あります
八重歯がかわいい…と言われていたのは遠い昔のこと。それに加え、受け口、すきっ歯、乱ぐい歯といった人は歯列矯正がすすめられるケースです。
「歯並びが悪いというのは単に審美の問題だけでなく、歯磨きが隅々まで行き渡らないことや、ほかの歯に負担がかかる、口呼吸からドライマウスを招くなどトラブルの元凶に。つまり虫歯や歯周病といった、歯を失うリスクを高める原因になるのです」(照山裕子先生)
例えば、「すきっ歯」では食べかすが詰まりやすく、また隙間から息が漏れるので発音が不明瞭に。上下の歯のかみ合わせが逆になっている「受け口」は咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)に支障が出ます。
「出っ歯」は前歯で食べ物が嚙みづらく、発音が不明瞭になりやすく、唇が閉じづらいので口呼吸になりドライマウスを招くことも。
前歯の隙間が上下方向に大きくあいた「開咬(かいこう)」は、前歯で嚙むことができないので、かみ合っている歯に極端に負担がかかります。「乱ぐい歯」では凹凸が多いので、汚れがたまりやすくなります。
「実際に、80歳以上で20本以上の歯が残っている人のほとんどが、矯正の必要のない歯並びのいい人だったというデータがあります」
歯列矯正は何歳になってもできるの? そのメリットと注意点は?
歯列矯正は子どもがやるもの…というイメージがありますが、何歳になってもできるものでしょうか?
「基本的に、歯や歯茎が健康であれば何歳からでもできます。最近は60代~70代で行う人もいます。大人になってから初めて矯正をする人もいますが、治療が難しくなる可能性が高いのは、小・中学生の頃に矯正した歯並びが戻ってきてしまったケースです。
通常は動かした歯を固定するために、一定期間リテーナーという装置をつけるのですが、それが徹底されていないと、元に戻りやすくなります。固定したと思っていても、何十年とたつと歯周病などが引き金となり、歯並びが乱れてくることがあります。
やり直しでも、初めて行う場合でも、大人になってからの矯正は、子どもと違って歯を支える骨が硬くなっているので少し時間がかかります。
また、歯並びが悪くなるというのは、歯に対して並ぶ場所(あごの大きさ)がアンマッチであることが多いです。まだ骨格が成長過程にある子どもの場合は、あご自体を広げながら行うことがあります。一方で大人の場合はあごを大きく広げることが難しいので、スペースを確保するために、健康な歯を抜かなければならない場合もあります。
基本的に保険が適用されないので、治療費は高額になります。
人気のマウスピース矯正には注意点も!
歯列矯正というと、針金を装着して歯を動かすワイヤー矯正を思い浮かべる人がほとんどでしょう。この場合は、金具が目立つのが気になります。しかし、最近では、透明なマウスピースを使って行う方法が登場し、装置が目立たないことで人気を集めています。
「ワイヤー矯正の場合は、専門の知識と技術を習得した専門医が行うのが一般的です。歯茎の状態や動く速度には個人差があり、そのつどその状態を見つつ、確実に歯を動かしていくため、ほぼ思い通りの仕上がりになります。
一方でマウスピース矯正は、3Dシミュレーションでプログラミングされたマウスピースを定期的に付け替えていく方法で歯を動かします。装置が透明なので目立たないことに加え、食事中は外せること、歯並びの状態によってはワイヤーよりも安価で治療が受けられるというメリットがあります。
しかし、1日20時間以上装着する必要があるのですが、その着脱は患者さんに委ねられます。患者さんが決められた時間きちんとつけていればいいのですが、守らないことが多いと、予定通りに歯が動かないことになります」
マウスピース矯正の流れ
レントゲン撮影と、口腔内と顔の写真を撮ります。
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歯の型をとり、そのデータを元にコンピューターで治療の前後の歯の位置を予測した画像を作成。
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メーカーにマウスピースの作製をオーダーします。
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後日、マウスピースが治療に必要な枚数分まとめて歯科医院に届き、着脱のルールなどの提示がされ、患者に渡されます。
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患者自身が自宅で、1~2週間ごとに決められた順番でマウスピースをつけ替えていきます。
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4~6週間に1回、歯科医院を訪れて治療経過を確認してもらいます。
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矯正が完了します。
「マウスピース矯正は、歯科医師の免許さえあれば、簡単な講習を受けるだけでライセンスが取得できるメーカーがほとんどです。実は、思い通りの仕上がりにならなかったり、かみ合わせが悪くなるなどのトラブルが頻発しているのも事実です。
治療が思うように進まなかったとき、それをリカバリーできる矯正専門医を選ぶことも大切になります」
【教えていただいた方】
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子