前回、私がボランティアで担当させていただくことがあるマラソン大会のペーサー(
ペースメーカー)についてお伝えしたところ、いくつか質問をいただきました。特にマラソンの公式記録とか、「グロスタイム」と「ネットタイム」の違いなどがもう一つわかりにくかったようです。
確かに、自分が大会に出るようになるまで、私もよくわかっていなかったことを思い出しました。
というわけで、今回は「さらに細かい疑問に答えます!」という回で行きたいと思います。
そもそもマラソンの記録ってどう決まる?
例えば、世界陸上のような大会に日本代表として出たければ、決められた標準記録を突破していなければそもそも選考対象にもなれません。 この標準記録に使われる記録が陸連公認記録、一般的に公式記録と呼ばれるものです。
市民マラソンであっても、記録を狙う限り陸上競技の一つです。陸上競技にはルールがあり、そのルールにのっとったものでなければ公式記録として認められません。 例えば、現時点で世界最速のマラソンランナー、エリウド・キプチョゲ選手は2019年にフルマラソン2時間切りという偉業を成し遂げていますが、この記録は国際陸連の非公認レースで達成したため、世界記録には認定されていません。(現時点での世界記録は2時間0分35秒)
日本においては、一般の市民ランナーが自分の記録を公式記録としたいなら、最低でも以下の条件を満たしている必要があります。
①その人が日本陸連(JAAF)登記・登録会員であること
②そのレースが日本陸連またはその傘下にある47都道府県陸協、実業団連盟、学生連盟などが主催しており、審判が公認審判員であること
③大会のコースが、日本陸連の競技規則にしたがって公認を受けていること
④グロスタイム(号砲が鳴ってからゴールするまでの時間)であること
(陸連の仕組みはイラストで図解してみましたので、参考にしてください。)
よく聞かれるのですが、陸連登録は別に陸上競技の選手だけしか登録できないわけではなく、記録を残したい人であれば誰でも登録することができます。マラソン大会には、一定以上の参加資格タイム(記録)を持った人でないとエントリーできない、福岡国際マラソンのようないわゆるエリートのみの大会や、前方からスタートできる東京マラソンのエリート枠のようなものもあるので、市民ランナーでも登録している人は思いのほか多くいらっしゃるんですよ。
ちなみに、市民ランナーの場合、タイムの計測はICタグがほとんどです。だいたい、ナンバーカード(ゼッケン)の裏に小さな機械がついているか(これはフィニッシュで回収します)、シューズのひもに通してつけるタイプのどちらかが主流です。
これらが、スタートやフィニッシュ、または途中のコース面に置かれたトリガーを越えることで時間が記録されるのです。
さらに、日本記録などの場合は、JAAFの審判員の画像による判断を経て正式に決定されます。陸上競技では選手の胴体が5㎝幅のフィニッシュラインの手前側(スタートラインに近い側のふち)に到達した時を、フィニッシュと定義しているからです。
前述した②はその役割も担っており、万が一にも間違った判断がされないように何重の確認がされるようになっているのです。
簡単にいえば、決められた条件において陸連に認定されていない大会は、ただの「運動会」ともいえます。例えば、チームなどでやるタイムトライアルやマイクロレース(小規模なレース)などですね。
そう考えれば理解しやすいのではないでしょうか。
とにかく速い人が優遇されるのがランナーの世界
公式記録を狙う選手の人たちのタイムも、スタート位置によっては数秒違ってしまうのですか?とも質問もいただきました。
これはおっしゃる通り、正確には違います。簡単にいえば先頭でスタートできる方が数秒でも有利になります。そのため、普通はいわゆる持ちタイムが速い選手や、日本記録狙いなどの選手などを最前列からスタートさせます。テレビなどで映すのは、だいたいこの最前列の選手のスタートです。その基準はほぼ「速い順」です。
つまり、マラソン大会のスタートは持ちタイムが速い人が前と決まっているのですね。スタート直後の混乱を避けるためでもあるのですが(遅い人が前だと壁になるので危ない)、遅い人ほどグロスタイムでの記録は狙いにくくなる仕組みです。速い人がひたすら優先される世界なんです(笑)
ずるいと感じますか?
私も経験があるのですが、自分が出せるスピードより速い人が周囲に大勢いる状況は、ぶつかる危険もありますし、なによりその波に乗れないので本当に怖いものです。チーターの群れが走る中で、ウサギが一匹ちまちま走っている風景をイメージしてみてください。速い順にスタートするということは、実は理に適っていることなのです。
さらに、東京マラソンなど大規模大会では同じブロックスタートでも、前と最後部では数分以上違うこともあります。 最近はウェーブスタート(時間差でスタート時間を変える方式)の大会も増えていますが、公式記録での記録を狙うつもりがなければ、ネットタイム=自己ベストと割り切っている市民ランナーも多いです。
また、最近は、計測の精度も上がってきていることもあり、大会主催者がネットタイムを大会としての正式記録として採用しているレースも増えてきています。
ペーサーって完走する?しない?
最後に、ペーサーは最後まで走るのか、というご質問もありました。 テレビで中継されるような大会だと、だいたい30キロや中間点で走り終わるのをよく見るからだそうです。
これは、目的によって違いますね。市民ランナー向けだと、主に自己ベスト更新をサポートすることが役目なので、フルの距離すべて一緒に走ることを求められることが多いです。前半後半でペーサーが変わる場合もあります。後半の人はレース途中から走るということですね。
半面、日本記録を狙うような大会だと、レース冒頭の混乱を防ぎ、望まれる記録が出やすいよう先導することが大きな役割だと思います。
だいたい記録を狙うようなレースだと、そもそもそのスピードで走れる選手はそうはいないということとイコールです(新記録ですからね)。 そのため、距離を短くして複数でサポートする形をとり、だいたい30kmあたりで離脱することを想定しているケースが多いようです。
ただ、2021年の大阪国際女子マラソンで大会記録を出した一山麻緒選手のペーサーは、現役男子の川内優輝選手で、川内選手は完走しています。男子と女子のタイム差ならではのことかもしれませんが、これからはこのようなパターンも増えていくのかもしれませんね。