「~すべき」の許容範囲を広げれば無駄な怒りは減る!
怒りが込み上げたときに、その場を上手にやり過ごす方法を「対症療法」とすれば、怒りに振り回されない人格をつくるのは「体質改善」に当たります。こうした体質改善は、アレルギー体質の改善と同じように時間はかかりますが、何度も繰り返し訓練をすることで実現するのだそう。
「怒りは大切なものを守るために生まれる感情です。現代社会において、その多くの部分を占めるのが、『~すべき』という自分の大切な考えが裏切られたときに、それを守ろうとして起こる感情です。
もちろん怒りは必要な感情なので、すべて我慢すればいいわけではありません。上手にコントロールできるようになれば、無駄に怒ることが減り、イージーモードで生きられるようになります」(安藤俊介さん)
そんな日々を穏やかに過ごせる人になるための、7つの方法を紹介します。
体質改善1 「~すべき」の許容範囲を広げる
「例えば、時間を守るのは当然というのは、基本的にみんな思っていることかと思います。しかし、中には約束の10分前には来る“べき”と思っている人もいます。
すると、時間きっかりに相手が来れば、たいていは怒ることもありませんが、10分前が当たり前と思っていたら、怒りの回数が増えることでしょう。その許容範囲を約束の10分後でも許す…となれば、怒りの回数はもっと減るはずです」
この一例のように、こうある“べき”を緩くして、許容範囲を広げれば、ストレスも格段に減りそうです。しかし、実際には自分の基準が普通なのか狭いのかを、わかっていない場合も。
「そこでおすすめしているのが、『アンガーログ』や『べきログ』を書くことです」
『アンガーログ』とは怒りの感情が湧いた出来事を記録することです。意外と自分がどうしたときにイラッとするのかをわかっていないことがあります。このアンガーログは日記ではありません。その場で出来事を書き留めて、分析や解決策まで書く必要はありません。あくまでも、どんなことにどの程度の怒りを感じたかだけを書き留めます。
これを心が不安定なときに見返すのはNG。1週間くらいして気持ちが落ち着いているときに振り返ります。
そして、これを元にその怒りの裏にある自分がこだわる『~すべき』を分析してみます。例えば、タクシーの運転手が道を間違えて遠回りしたことにイラッとしたとします。その裏には『タクシー運転手は道を熟知している“べき”』という思いがあることがわかります。
これが『べきログ』です。記録簿をつけることで、自分はどんなことに怒りを感じるのかがわかってきます。
さらに、これを『許せる』『まあ許せる』『許せない』の3段階に分けてみます。こうして自分の『~すべき』の許容範囲を把握して、その範囲をできる限りで広くしていくのです。こうした作業を繰り返して許容範囲が広がると、怒りを感じる頻度は少なくなるはずです」
体質改善2 語彙力のスキルを上げる
「赤ちゃんは言葉が話せないため、ただ泣くことで表現します。実は大人も言葉での十分な表現力を持っていないことがあります。どんな状況でも『ムカつく』という表現ですませていないでしょうか? 本当の気持ちを上手に表現できないでいると、怒鳴ったり、暴力的な行為に出ることになります。
怒りの気持ちを表現するには『語彙力』が必要になります。語彙力を養うには、本を読む、映画を観る、音楽を聴く、絵画を鑑賞するなど、さまざまな文化に触れるのがおすすめです。
また、違う業界や会社、学校、地域に住む人など、違う価値観を持つ人と触れ合うことも必要です。海外旅行をしてその地域の人と話をしたり、観察することも、語彙力を磨く手助けになると思います」
体質改善3 ストレスを上手に発散する
「よくやりがちなのが、不平不満や愚痴をこぼしたり、やけ酒を飲むなどです。しかし、これらはアンガーマネジメントの観点からするとNGです。
常に不平不満や愚痴をこぼしていると、その出来事を反復することになり、怒りの感情が記憶に定着してしまうからです。お酒もストレス解消になればいいのですが、ともすると怒りを増幅しかねません。
ストレス解消におすすめなのは適度な運動です。ウォーキングやサイクリング、水泳、ストレッチなどで、気持ちよく体を動かします。
また、時間を決めて趣味を楽しむのもいいでしょう。スポーツを楽しんだり、カラオケで歌う、楽器を演奏する、絵を描く、手芸に没頭するのも◎。人に迷惑をかけず、自分自身が疲れてしまわないストレス発散方法を、見つけておきましょう」
体質改善4 心身の健康を維持する
「当然ながら体や心の調子が悪いときは、ささいなことでイラッとしがちです。怒りの感情に翻弄されないためには、心身を健康に保つことが大前提です。
それには、栄養バランスのいい食事、適度な運動、良質な睡眠は不可欠です」
不摂生をしていませんか? 心の平穏を保つには日頃の生活習慣を見直すことも重要です。
体質改善5 笑顔で丁寧な言葉遣いを心がける
「よく昔から、『笑う門には福来る』という言葉があるように、笑顔をつくることで、脳が『今、喜んでいる』と思い込むのです。体の状態に心がついてくるともいえるでしょう。
日頃から所作を美しく、言葉遣いを丁寧にして、常に笑顔でいることで、いわば脳がだまされるのです。こうすることで、周囲の人も気持ちがよくなり、自分自身の怒りの感情も遠のくはずです」
体質改善6 幸せと感じることを書き留める
「怒りの感情と同様に、私たちはどのようなことに幸せを感じるのかも、意外と意識していないものです。そこで、生活の中で幸せを感じたことを書き留めます。これをハッピーログと呼んでいます。幸せを意識することで、自分の人生は楽しいと思える頻度が高まり、ストレス解消にもなります」
体質改善7 事実と思い込みを切り離す
実は私たちは「事実」と「思い込み」を混同しがちなのだと安藤さん。
「例えば、『上司から叱られたので、私はダメ人間だ』という例でいえば、上司から叱られたことは事実、しかしダメ人間であるというのは思い込みです。すると、上司から私はダメ人間だと言われた、もしくは思われているとなり、そこに無駄な怒りが湧き上がります。これを切り離して考える癖をつけることが大切です」
いかがでしたか? こうした思考癖を少しずつ改善することで、無駄に怒ることが減り、穏やかな人に近づけます。
「長年染みついた思考癖を変えるには時間がかかります。子どもの頃、自転車に乗る練習をして何度も転んで、ある日、突然コツがつかめて乗れるようになりますね。それと同じです。アンガーマネジメントを身につけるためには反復練習が必要です。ポイントは毎日少しでも意識して実践することです」
【教えていただいた方】
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。新潟産業大学客員教授。怒りの感情と上手に付き合う理論と技術をアメリカから導入。教育現場から企業まで幅広く講演、研修、セミナー、コーチングなどを行う。ナショナルアンガーマネジメント協会では世界で15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルの唯一のアジア人。『[図解]アンガーマネジメント超入門 怒りが消える心のトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。
イラスト/カケハタリョウ 取材・文/山村浩子