あなたも『アルプスの少女ハイジ』のクララに!?
ビタミンDは、骨の健康を維持するのになくてはならない栄養素です。骨というと、まずカルシウムを思い浮かべますが、それはビタミンDの助けがあってこそ。
「ビタミンDはカルシウムの吸収を促進するので、ビタミンDが不足するとカルシウムも欠乏し、骨の強度が維持できなくなります。
子どもなら骨の変形、筋力低下などが起こる『くる病』、大人では成人のくる病といえる『骨軟化症』、そして骨がもろくなる『骨粗しょう症』の原因になります。
骨の代謝は女性ホルモンの影響を受けるため、骨粗しょう症が更年期以降に急増するのは皆さんも知っていますよね。でも最近、日本では昭和の病気と思われていた、くる病や骨軟化症も増えているんです。
それは、前回までにお話ししたように、日本人が紫外線をガードしすぎてビタミンDをつくれなくなっているのが理由でしょう。
とてもわかりやすい例として『アルプスの少女ハイジ』に出てくるクララがいます。彼女は車椅子に乗っていますが、ビタミンD欠乏による、くる病だったという説が有力。
ハイジとともにアルプスで過ごすうちに立てるようになったのは、ビタミンDが充足したからに間違いないですね」
と解説してくれるのは、斎藤糧三先生。早くからビタミンD関連の本を出し、クリニックではビタミンDの血中濃度検査なども実施しています。
『アルプスの少女ハイジ』は19世紀末の物語。舞台はスイスの山小屋と、ドイツの都会フランクフルトです。当時のヨーロッパは産業革命の真っただ中で、クララが住むフランクフルトは工業化が進み、大気汚染のために日光がさえぎられるほど。地表に紫外線UVB波が届かない環境だったと推測されます。
そこで育ったクララは、足が悪く車椅子生活を送っています。紫外線を浴びることがないので色白ですが、その分、皮膚でビタミンDをつくることができず、確実にビタミンD欠乏。骨変形と筋力低下が進んだくる病だったと考えられます。
「しかも、クララのあのツンツンした雰囲気はマグネシウム欠乏でしょう。ビタミンDはカルシウムだけでなくマグネシウムの吸収もサポートします。神経が安定しないイライラは、マグネシウムの欠乏症状でもあります。
ハイジと一緒にアルプスの山小屋で過ごすうち、日光をたっぷり浴びて皮膚でビタミンDをつくり出せるようになった。しかもヤギの乳やチーズなどを食べてカルシウムもタンパク質もばっちり。骨も筋肉も丈夫にしっかり成長して、ついには『クララが立った』となるんです」
「サンシャインビタミン」とも呼ばれるビタミンD。現代の日本人は、大気汚染ではなく「紫外線は有害」と過剰に信じた結果、98%がビタミンD不足(注1)という結果に。
(注1)The Journal of Nutrition誌Volume 153, Issue 4, p1253
日焼け止めを手放さず、日傘にアームカバーで紫外線をがっちりガードしている人は、ビタミンD欠乏に向かってまっしぐらであることを自覚したいものです。
1日に必要なビタミンDの量は第3回を参考に。
強い骨のために、ビタミンDとともにとりたい栄養素とは?
女性は閉経に向かう更年期より前、40歳になったら骨強化のためにビタミンDを意識することが重要です。
骨は常につくり替えられていて、成人では3〜5年で全身の骨が入れ替わります。骨を新しく強くつくり替えていく努力をしないと、閉経後に骨粗しょう症のリスクが高まってしまいます。
「骨の強さは“骨質”と“骨密度”、ふたつの要素で決まります。どうしても骨密度だけに話が行ってしまいがちなのは、骨質は簡単に測定できないから。
骨の成り立ちは、鉄筋コンクリートにたとえられます。骨質は鉄筋、骨密度はコンクリート。強くてしなやかな鉄筋(骨質)と、しっかり密なコンクリート(骨密度)、両方とも大事ですよね。
コンクリートだけ濃くしても、鉄筋の質がよくないと建物としては頑丈とはいえない。同じ骨密度の人でも、実際の骨の強さは異なるわけです。骨密度は悪くないのによく骨折する人などは、まさにそれでしょうね。
中を支える鉄筋(骨質)のほうは、おもにコラーゲン、つまりタンパク質でできています。外側を埋めるコンクリート(骨密度)は、おもにカルシウムです。カルシウムの吸収調節にはビタミンDが不可欠。
だから、この3つ、カルシウム・ビタミンD・タンパク質は、骨をつくる3大栄養素と覚えておいてください」
骨質の観点からは、タンパク質とともにビタミンB群、ビタミンC、鉄などが必須。骨密度ではカルシウム、ビタミンDとともにマグネシウム、リン、ビタミンKをとることも大事です。
【教えていただいた方】
1973年生まれ。日本医科大学卒業後、産婦人科医に。その後、美容皮膚科治療、栄養療法、点滴療法、ホルモン療法を統合したトータルアンチエイジング理論を確立。2008年「日本機能性医学研究所」を設立(2009年に法人化)。2017年、スーパーフードとしての牧草牛(グラスフェッドビーフ)の普及を目指し、日本初の牧草牛専門精肉店「Saito Farm」をオープン。2022年、機能性医学と再生医療を融合させた治療拠点として「斎藤クリニック」を開設。著書に『サーファーに花粉症はいない』(小学館)、『病気を遠ざける! 1日1回日光浴 日本人は知らないビタミンDの実力』(講談社+α新書)ほか多数。斎藤クリニック、Saito Farm
イラスト/内藤しなこ 取材・文・画像制作/蓮見則子