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誤嚥を防ぐ「食べ方ルール&自衛策」を知っておこう!

「飲み込むとき、上を向くと飲み込みやすい」と思っている人が意外に多いのですが、それはまったくの誤解。実は飲み込むときにスムーズに食道に入って行きやすい首の角度や姿勢があるのです。誤嚥の予防対策について、耳鼻咽喉科専門医の西山耕一郎先生に教えていただきました。

飲み込むときは「うなずき嚥下」で

 

皆さんは、飲み込むときに誤嚥しにくい首の角度があるのをご存じでしょうか。

 

例えば牛乳を飲むとき、腰に手を当て、あごを上に向けて飲むポーズが知られていますが、実はこれは誤嚥を招きやすい角度。なぜなら、あごを上に向けると喉が伸びて、喉仏を持ち上げる動きが悪くなってしまうからです。しかも、食べ物や飲み物がダイレクトに気管に入ってしまう危険が!

 

むしろ、飲み込むときに誤嚥しにくいのは、「うなずき嚥下」と呼ばれる、軽くおじぎするように下を向く角度。少し下を向く姿勢をとると、喉全体が狭くなりますが、食べた物や飲んだ物が気管ではなく食道に流れやすくなるのです。

 

誤嚥性肺炎_正しい飲み方、間違った飲み方

↑口の広いカップやグラスは、上を向かずに飲めるのでむせにくくなります

 

 

誤嚥性肺炎_飲んだら「ごっくん」

 

↑飲み込む瞬間に意識して、ごっくんしましょう

 

 

『うなずき嚥下』を40代~50代のうちから習慣化すると、高齢になってからの誤嚥のリスクがぐんと低下します。また、食べ物や飲み物を口にするときは、直前に息を吸ってから食べるのもおすすめ。そうすれば食べ物や飲み物を吸い込んでしまうことがなく、気管に入るリスクが減ります。そして、『うなずき嚥下』するときには、『今から飲み込むぞ』と意識して、完全に飲み込んでから息を吐くようにしましょう。この一連の動作を意識するだけでも、誤嚥を防ぐことができますよ」(西山耕一郎先生)

 

飲み物は口の広い食器で飲む

 

500ml入りのペットボトル飲料を飲むとき、多くの人はボトルから直接飲むことが多いかもしれません。でも、口の狭いペットボトルは上を向く姿勢で飲むことになり、飲み物がダイレクトに流れ込むため、気管に入ってしまいやすいのです。

 

「誤嚥を防ぐためにも、ペットボトルから直接飲むことはやめて、口の広いカップやグラスに注いで飲むようにするといいですね。口が広い食器を使えば、少し傾けるだけで飲むことができるので、『うなずき嚥下』で飲むことができますよ」

 

 

食事をするときは猫背にならないように注意

 

日頃、無意識に行っている食事中の姿勢を振り返ってみてください。誤嚥には、食事の際の姿勢も影響するからです。椅子に浅く座って背もたれに体を預ける姿勢や、猫背で食べるのはよくありません。床や畳に座ったり、ソファなどの低い椅子に座って食事する人もいると思いますが、前かがみになって背中が丸くならないようにしましょう。

 

「食事中の姿勢を見直すには、テーブルの高さを見直すとよいでしょう。テーブルが高すぎたり低すぎたりすると、体とテーブルが遠くなって、あごを前に突き出して食べる犬食いの姿勢になってしまいがち。すると、あごが上がって飲み込みにくくなり、誤嚥のリスクが上がってしまうのです」

 

椅子に座って食事する際は、足の裏をしっかりと床につけて、背もたれのある椅子に深く座るようにします。そして、背すじを伸ばして、飲み込むときには「うなずき嚥下」を意識しましょう。

誤嚥性肺炎_食事の姿勢
↑机が低く椅子が高いと、あごが上がり、飲み込みにくくなるので注意。また腰を背もたれにつけないと、背中が丸くなり、あごが上がりやすい。背もたれのある椅子に深く座って食事しましょう

 

ひと口の量は少なめに。早食い、かき込み食い、ながら食いはNG

 

かき込むように食べたり、食べ物を口いっぱいにほおばると、食べた物が気管に入りやすくなるので要注意。ひと口の量は大さじ1杯程度が適量です。丼や皿に口をつけてかき込むように食べる「かき込み食い」は、ひと口の量が多くなりやすいので避けましょう。急いで食べる「早食い」も誤嚥を招きやすいのでNGです。

 

また、テレビやスマホを見ながらの「ながら食い」も誤嚥のもと。家族や友人とおしゃべりしながら食事するのは楽しいひとときですが、むせやすい人は要注意。口の中に食べた物が入ったままの状態でおしゃべりすると、息を吸ったときに食べた物や唾液が気管に入ってしまう心配があるからです。会話するのは「飲み込んでから」が鉄則。

 

誤嚥のリスクを減らすには「ながら食い」を避けて、食事に集中することが大切です。食事にかける時間は30分以内を目安にしましょう。

 

嚙みすぎるのは誤嚥のもと。適度に嚙んで

 

おいしく食べて味わうには、よく嚙んで、飲み込みやすい食形態にすることは大切です。だからといって、嚙めば嚙むほどいいというわけではありません。嚙む時間が長いと、固形物と水分が分かれてしまう「離水」が起きて、水分だけが気管に入ってしまうことがあるからです。

 

また、嚙む時間が長すぎると、食べた物が喉の奥にたまった状態になり、むせやすくなります。適度に嚙んで、口の中で飲み込みやすい形状にまとまったら、飲み込むようにしましょう。

 

もしも魚の骨が喉に刺さったら?

 

子どもの頃、「魚の小骨が喉に刺さったときは、ご飯を丸飲みするのがよい」と言われたことはありませんか?

 

「でも、それは絶対にやってはいけません! 喉の粘膜に小骨が引っかかっているところにご飯の塊を丸飲みしたら、魚の骨がさらに深く刺さってしまう危険があります。耳鼻咽喉科を受診して、医師に対処してもらいましょう」

 

自分でピンセットなどで取ろうとすると、粘膜を傷つける心配があります。「たかが魚の骨」と侮り放置すると、喉が感染して命にかかわる場合もあります。うがいを繰り返しても取れなければ、耳鼻咽喉科の医師に専用器具で除去してもらうのが、最も安全な方法です。

 

【教えていただいた方】

西山耕一郎
西山耕一郎さん
西山耳鼻咽喉科医院院長
公式サイトを見る

医学博士、東海大学医学部客員教授、藤田医科大学医学部客員教授。耳鼻咽喉科頭頸部外科専門医、日本嚥下医学会嚥下相談医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。現在は複数の施設で嚥下外来と手術を行うかたわら、教鞭をとりながら、学会発表や医師向けセミナーを行う。著書に『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)、『のどを鍛えて肺炎を防ぐ』(大洋図書)、『誤嚥性肺炎に負けない1回5秒ののどトレ』(宝島社)など多数。

 

 

イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/大石久恵

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