更年期女性に多い「非アルコール性脂肪性肝疾患」に要注意!
「更年期症状として、すぐ疲れる、意欲が湧かない、何もする気になれないといった、倦怠感や意欲の低下を訴える人も多く見受けられます。これらの症状は進行した肝機能障害でも起こります」(小川真里子先生)
肝臓の病気といえば、B型肝炎やC型肝炎といったウイルス性のもの、お酒の飲みすぎによるアルコール性肝障害、薬剤の服用による薬物性肝障害などが思い浮かびますが…。
「それ以外に最近は、特に更年期世代に多いのが『非アルコール性脂肪性肝疾患』(Nonalcoholic fatty liver disease=NAFLD(ナッフルド))や『非アルコール性脂肪肝炎』(Nonalcoholic steatohepatitis=NASH(ナッシュ))です。文字通り、お酒が原因ではない肝疾患です。
この病気になる人は、お酒が飲めない人に多く、スイーツや脂質の多い食事を好む傾向があります。太っていたり、見た目はスリムでも内臓脂肪が多かったり、夕食と寝るまでの時間が短い(夕食が遅い)、運動不足も原因と考えられます。
『お酒は飲まないし、油っこいものも好きじゃない』と言う人が多いのですが、よくお話を伺うと、お酒は飲まなくても食後にスイーツは欠かさない。揚げ物をあまり食べないだけで、脂質はしっかりとっているケースは少なくありません。
肝臓は胃や腸で吸収された栄養素を分解する代謝の役割と、有害物質を解毒したり、消化吸収を助ける胆汁の生成・分泌などの働きがあります。やはり食事の内容は肝機能に影響します。
肝臓は沈黙の臓器といわれている通り、肝機能障害の初期では症状はほとんどありません。倦怠感などが現れるのは、かなり症状が進んでからです。ほかに食欲不振、筋肉痛、発熱、頭痛、吐き気、黄疸(おうだん)などが現れます。
初期段階では症状がないので、定期健診の血液検査が重要になります。注意すべきはALT(GPT)で、肝臓の細胞が破壊されると血液の中に流れ出し、いずれも30(IU/L)以下が基準値です。
γ-GTP(γ-GT)は解毒作用にかかわる酵素で、アルコールが原因の場合は血液中に出てくるといわれています。女性は30(IU/L)以下が基準値です。
定期健診で要注意、異常という数値が出た場合は、放置は禁物! やがて肝炎や肝硬変、肝臓がんへと進行することもあるので、早めに内科を受診してください。
治療は有効な薬物療法はほとんどなく、主軸は生活習慣改善です。栄養バランスを整えて、カロリー制限をしたり、週3~4回の有酸素運動と筋トレの組み合わせ30~60分を目安にした運動療法です。
婦人科を受診しても、肝機能が悪い場合は、HRT(ホルモン補充療法)などの更年期の薬物療法がすぐにはできない場合があります。重度の肝機能障害の場合、HRTは禁忌になるので注意が必要です」
疲労感は貧血でも起こります
「疲れやすいといった症状は貧血でも起こります。
貧血は血液中の赤血球の中にある、ヘモグロビンの濃度が低くなった状態です。すると酸素を体の隅々まで運ぶことができません。そのため、体内の酸素が不足して、体が疲れやすくなります。ほかに息切れやめまい、頭痛、動悸などの症状も。
成人女性では血液検査でヘモグロビン値(HbやHGB)が12g/dL未満の場合に、貧血と診断されます。
原因は閉経前の過多月経や頻発月経などで、経血が増加することで鉄分が不足することが考えられます。ヘモグロビンは鉄から作られるので、鉄分が不足するとヘモグロビン値が低下して貧血状態になるのです。これを鉄欠乏性貧血といいます。
貧血の診断基準ではヘモグロビン値が正常範囲でも、体内の貯蓄鉄フェリチンが不足している『隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)』の場合もあります。
血液検査を行い、鉄不足が確認されたら鉄剤などが処方されたり、出血が多い場合は月経 をコントロールする治療を行うことも。日頃から、レバーや赤身の肉や魚などで鉄分の多い食事を積極的にとるようにしましょう」
【教えていただいた方】
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。専門は更年期医療学、女性心身医学、女性ヘルスケア。相談やカウンセリングを中心としたケアサポートとともに、最新のテクノロジーや視点を取り入れて、更年期を取り巻く環境や文化を積極的にアップデート。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子