【教えていただいた方】
自律神経の働かせすぎが疲労の原因
寝ても疲れが取れない、すぐに疲れる、慢性的に疲労を抱えているという人はいませんか? そんな状態でも、仕事が休めない、家族や介護中の親のために食事を作らなければならないなど、なんとか体や気持ちをだましながら、やりくりしている人も少なくないでしょう。
そもそも「疲れる」とはどんなことなのでしょうか?
「疲労は空腹感、喉の渇き、痛み、眠気、発熱などと同じように、人間の生体を維持するための一種の警告です。これ以上、体や精神にストレスが続いたら、体に害が及ぶので活動をやめさせようとするサインなのです。
それには自律神経が関係しています。
自律神経には活動時に活発になる交感神経と、夜や安静時に活発になる副交感神経があり、呼吸や心拍、発汗や体温調整などをコントロールしています。
例えば、運動時には交感神経が働いて、その強度や体調などに応じて、呼吸や心拍数、血圧、体温などを上げて調節します。こうした交感神経が働くシーンは、ほかに頭脳労働や精神的ストレスを受けたときなどがあります。
一方で、副交感神経は主にリラックスしているときに働き、呼吸や心拍数、血圧などを下げます。理想はこの交感神経と副交感神経がバランスよく働くことです。
人間にとって、適度な頭脳労働や運動、ストレスなどは必要です。しかしながら、現代社会では交感神経が働きすぎている現状があります。
例えば、徹夜で仕事をしたり、嫌なことがあってイライラ、クヨクヨした状態、暑すぎたり寒すぎるといった環境要因でも交感神経が働きます。
交感神経が働きすぎると、神経細胞内に活性酸素が大量に発生して細胞にダメージを与えます。これが疲労の原因といわれています。つまり、自律神経を酷使すると疲労が生じるのです。
いつもアクティブで、あまり寝なくても平気で元気そうに見える人でも、自覚がないだけで、実は体も脳も疲れています。体からのSOSを見逃すと、やがて大きな病気になったり、突然死の原因になりかねません。
疲労の予防をしたり、回復させるためには、自律神経への負担を減らすことが何より大切です」(工藤孝文先生)
セロトニンや血糖値も疲労に大きくかかわっている!
また、こうした自律神経の乱れは、次々と疲れの原因となる体の不調を招くのだと工藤先生。
「自律神経のバランスが乱れて、交感神経が優位な状態が続くと、腸のぜん動運動が悪くなるので便秘になります。すると有害物質が血液に乗って全身を巡り、冷えや免疫力の低下が起こり、これが疲労につながります。
また、精神の安定や睡眠と深くかかわっている神経伝達物質であるセロトニンは、そのほとんどが腸でつくられます。しかし腸内環境が悪いとセロトニンが十分に産生されず、やがて、不眠やうつなどの精神症状にも現れることがあります。
良質な睡眠がとれなければ、疲労やうつ症状などは回復しません。セロトニンは副交感神経を優位にする働きもあるので、ますます交感神経が働きすぎる悪循環に陥り、これが続けば、どんどん疲労が蓄積されることになります。
セロトニンが十分に分泌されると、活性酸素を除去するメラトニンという物質が分泌されます。活性酸素は細胞や筋肉の働きを低下させるので、セロトニンを増やすことは疲労回復につながるのです。
もうひとつ、疲労の原因を引き起こす要因に血糖値があります。食事や甘いものを食べると、血糖値が上がります。この血糖値の急上昇と急下降が起こると、インスリンホルモンが大量に分泌され、急激に下がったときに強い空腹感とともに、気分の落ち込みやだるさを感じます」
【疲れの原因】
- 自律神経の疲れ(特に交感神経の使いすぎ)
- 腸内環境の悪化
- 免疫力の低下
- セロトニンの減少
- 血糖値の急上昇・急下降
「こうした要因はすべてつながっています。疲れない体にするには、これらを避ける生活を心がけることが重要です」
イラスト/midorichan 取材・文/山村浩子