急激な体重減少に要注意。ダイエットもほどほどに!
更年期にはさまざまな症状が現れます。そのひとつに月経不順があります。今まで定期的にきていた月経が不規則になると、「いよいよ更年期か!?」と思う人も多いでしょう。しかし、原因はどうもそれだけではないようです。
「今まで周期的に排卵し、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンを分泌することで起きていた月経も、卵巣の機能が衰えることで変化が表れます。
月経の間隔が不規則になったり、ダラダラと長く続いたり、あっという間に終わってしまったり…。その変化は人それぞれですが、こうした時期を経て、やがて月経が完全になくなる閉経が訪れます。
40歳を過ぎた頃に月経不順になると、『更年期ではないか?』と婦人科を訪れる人は少なくありません。しかしながら、中には更年期が原因ではないケースもあります。そのひとつが『体重減少性無月経』です。
体重減少性無月経とは、短期間に体重が減少することで起こる無月経のことです。主にダイエットで極端な食事制限をして、栄養失調の状態になると、月経が止まったり不規則になることがあります。
こうしたことは、10代~20代の若い世代に多いのですが、40代の人も結構います。30代後半くらいから体重が増えやすく、落ちにくくなるので、一念発起して始めたダイエットにハマってしまうケース、または体重にこだわりすぎることから起こる摂食障害も考えられます」(小川真里子先生)
3カ月~6カ月以内に元の体重から15~20%以上減少し、BMIが18以下になった場合は注意が必要です。
※BMI(体格指数)=体重(kg)÷(身長m)2
身長にもよるので一概には言えませんが、例えば70㎏の人が20%減らして56㎏になっても無月経にはなりにくいのですが、55㎏の人が44㎏になると少し危険かもしれません。
「急激に体重が減ると、その危機的な情報が脳に伝わり、生命維持を最優先に考えて、月経を起こすホルモンの分泌を抑制するのです。妊娠することは体にとても負担になるので、体の安全を守るための生体反応といえます。
その無月経もしくは月経不順が、更年期によるものなのか、体重減少によるものなのかは、血液検査でわかります。
血液中の卵胞刺激ホルモン(FSH)値と黄体形成ホルモン(LH)値がともに上昇している場合は、卵巣機能が低下しているとして、更年期と判断します。
一方で、このふたつの値が低く、最近、急激に痩せた事実があるか、BMI値など総合的に考慮して体重減少性無月経と判断します。
体重減少性無月経の場合の治療は、標準体重の90%くらいの体重に戻すことが先決になります。体重が増えれば、月経も戻ってくるはずです。
私のところに来た患者さんの中には、筋肉をつけようと鶏の胸肉ばかり食べている人もいました。その人は貧血の症状もありました。同じタンパク質をとる場合でも、赤身の肉や魚のマグロなど、鉄分の多いものもとらないと鉄不足になります。こうした栄養バランスの偏りでも、体に悪影響が表れます」
最近はさまざまな食事療法が提唱されていますが、極端に走らないことも大切かもしれません。
薬の副作用で月経不順になることも!
「また、時々見かけるのが薬剤の副作用による月経不順です。
一部の抗うつ剤や胃薬の中には、ドーパミンの働きを抑える作用をするものがあります。これらの薬を飲んでいると、副作用として『薬剤性高プロラクチン血症』を起こすことがあります。
プロラクチン(黄体刺激ホルモン PRL)は妊娠中や産後に多く分泌され、乳腺を発達させて母乳を生成する働きがあります。プロラクチンが高いときは排卵が止まり、月経がなくなります。
通常、プロラクチンの分泌はドーパミンによって抑制されています。しかし、薬によってドーパミンの働きが抑えられると、プロラクチンが増えてしまい、結果として月経に異常が出るのです。
血液中のプロラクチンの正常値は5ng/mL前後で、15ng/mL以上になると高プロラクチン血症と診断されます」
実際にあった例としては、40代後半の人で、胃の調子が悪く抑うつの症状もあったことから内科へ。そこで処方された薬を飲んでいたら、月経が止まってしまいました。その時点では薬が原因と思わなかったので、更年期だと思い、小川先生の婦人科を受診。そこで血液検査などで、プロラクチン値が高いことなどから「薬剤性高プロラクチン血症」と診断されました。
「対処方法は、その薬を処方している医師と相談のうえ、薬の種類を変えてもらうなどして服用をやめることです。私のもとに来た患者さんにもそのようにしてもらい、月経は戻りました。
高プロラクチン血症になる病気には、ほかに甲状腺機能低下症、下垂体の病気などがあります。こうした病気の可能性も考慮しつつ、慎重に判断していきます。
こうした症状を放置して無月経の状態が長く続くと、エストロゲンの減少により骨粗しょう症などのリスクが高まるので、早い治療が必要です」
【教えていただいた方】
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。専門は更年期医療学、女性心身医学、女性ヘルスケア。相談やカウンセリングを中心としたケアサポートとともに、最新のテクノロジーや視点を取り入れて、更年期を取り巻く環境や文化を積極的にアップデート。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子