深部体温を下げて眠気をもたらす睡眠ホルモン「メラトニン」
更年期になると、女性ホルモンの減少によって自律神経のバランスが乱れ、寝つきの悪さや中途覚醒、朝の目覚めの悪さなど、睡眠のトラブルが起きやすくなります。こんなときに知っておきたいホルモンが「メラトニン」です。「メラトニン」は、睡眠ホルモンとしてその名前をご存じの人も多いかもしれませんが、改めて、どんなホルモンなのかを工藤先生に伺いました。
「メラトニンは、“夜が来たよ”と体に教え、眠る準備をさせるホルモンです。人間の体には、朝に目覚めて、夜に眠るという一日のリズムを刻む体内時計が備わっています。そしてメラトニンは、体内時計が夜になったことを感知すると脳の松果体(しょうかたい)という部分から分泌されます。すると脳の興奮が鎮まって、深部体温が下がり、それによって眠気がもたらされるのです。
メラトニンには、睡眠の質を高めたり、生体リズムを整える働きのほか、活性酸素を除去する働きもあります。さらに、糖や脂質の代謝にもかかわる、アンチエイジングホルモンでもあります。メラトニンは、加齢とともに減少しやすくなるうえ、ちょっとした生活習慣によっても減ってしまいます。これが年をとると睡眠の質が下がる大きな原因のひとつです」
<メラトニンの働き>
・深部体温を下げて眠気をもたらす
・睡眠の質を高める
・生体リズムを整える
・活性酸素を除去する
・糖や脂質の代謝にかかわる
メラトニンを正しく分泌させるには、目覚めたら朝日を浴び、
夜は照明を暗くすることがポイント
では、メラトニンを正しく分泌させるには、どうしたらよいのでしょうか?
「メラトニンの分泌量は、目の網膜が受ける光の量によって制御されています。朝、目覚めたときに朝日を浴びると、体内のトリプトファンというアミノ酸を材料にセロトニン(連載第3回参照)が生成され、そしてその約14〜15時間後にセロトニンを材料にメラトニンが分泌され、眠気がもたらされます。ですから、朝起きたらカーテンを開けて朝日を浴びることを習慣にすることが大切です」
「逆に、夜に明るい光を浴びているとメラトニンの分泌が抑えられ、眠気が訪れにくくなってしまうので、就寝時間に近づくにつれ、照明を暗めにしていくのがおすすめです。また、スマホの発するブルーライトもメラトニンの分泌を抑えてしまうので、寝る時間が近づいたらスマホを見るのは避けましょう。寝るときは照明を消して真っ暗にしたほうが睡眠の質が高まります。
それから、メラトニンを作るには材料となるトリプトファンが必要で、これは体内では作ることができない必須アミノ酸なので、食品からとる必要があります。トリプトファンは、卵や肉、魚、豆腐や納豆などの大豆製品、チーズやヨーグルトなどの乳製品、アーモンドなどのナッツ類などのほか、バナナ、ごまなどに多く含まれています。これらの食品を意識してとりましょう」
睡眠の質を高めるには「コルチゾール」も上手にコントロールを
また、睡眠に関係するもうひとつのホルモンが、この連載の4回目でご紹介した“ストレスホルモン”「コルチゾール」なのだとか。このホルモンがどのように睡眠とかかわっているのでしょうか。
「コルチゾールは目覚めを司るホルモンで、深夜から明け方にかけて分泌が増え、血糖値や血圧を高めて起床の準備をします。規則正しい生活をしていると、起きる1〜2時間前からコルチゾールが分泌され、自然と気持ちよく目覚めることができます。でも、不規則な生活をしているとコルチゾールが分泌される時間も乱れ、全身に行き渡らないまま起きることになり、目覚めが悪くなってしまいます。これを防ぐために、起きる時間をいつも一定にし、規則正しい生活を心がけることがおすすめです。
また、ストレスが長期的にかかると、コルチゾールが慢性的に高い状態になり、寝つきを悪くするなど睡眠トラブルの原因になります。寝る前はなるべくストレスの原因になることを考えないようにし、自分なりのストレス解消法を見つけるなどストレスケアを心がけることも大切です」
睡眠トラブルが増えやすい更年期ですが、ふたつのホルモンを正しく分泌させることで睡眠の質を高めることはできるので、ぜひ実践を。
【教えていただいた方】
写真/Shutterstock 取材・文/和田美穂