【教えていただいた方】

防衛医科大学校卒業。2011年に仙台市にて、医療法人モクシン堀田修クリニックを開業。認定NPO法人日本病巣疾患研究会理事長。IgA腎症・根治治療ネットワーク代表。日本腎臓学会功労会員。2001年、IgA腎症が早期の段階であれば扁摘パルス療法により根治治療が見込めることを米国医学雑誌「AJKD」に報告。その後は同治療の普及活動と臨床データの集積を続ける。また、扁桃、上咽頭、歯などの病巣感染(炎症)が引き起こすさまざまな疾患の臨床と研究を行う。監修本『慢性上咽頭炎を治せば不調が消える』(扶桑社)など。ほかに著書多数。
空気の通り道「上咽頭」は鼻の奥!
「上咽頭」という言葉を初めて聞いた人も少なくないのではないでしょうか?
風邪をひいたとき、喉が痛くなることがあります。このときの喉というと、口の奥のイメージですが、実は炎症が起こっているのは、私たちが思っているより上の方で鼻の奥。それが上咽頭です。
「呼吸で鼻から吸い込まれた空気は、鼻の穴から鼻の奥に向かい、肺に続く気管へと下のほうに入っていきます。
ちょうど、その空気の通り道の流れが変わる場所が『上咽頭』です。その下に『中咽頭』『下咽頭』と続きます。口を開けて中を覗いても上咽頭を見ることはできません。
吸い込んだ空気には、ほこりや細菌、ウイルスなどが混ざっていて、それらも一緒に体に入ってきます。
上咽頭は繊毛上皮に覆われており、細胞の間には多数のリンパ球が存在します。上咽頭はこうした異物を付着させ、呼吸器への侵入を防ぎ、免疫システムの最初の砦になります。
よく風邪をひくと喉が痛くなったり、鼻水、咳、発熱したりします。こうした細菌やウイルスの感染は急性の上咽頭炎です。
一方で、この上咽頭の炎症が慢性化することがあります。やっかいなのは、慢性化すると風邪の諸症状はなく、血液検査でも炎症反応などの異常がないことです。
そして、上咽頭とは離れた場所に症状が現れることがあるので、まさか上咽頭炎が原因だとは医師でもなかなか気づかないのです」(堀田修先生)
慢性上咽頭炎が思いがけない病気を引き起こすことも
こんな症状はありませんか?
〇「鼻づまり」や「咳」などの風邪のような症状が長引いている。
〇「頭痛」「肩・首こり」が長年続いている。
〇「めまい」「全身倦怠感」「うつ」に悩まされている。
〇「花粉症」「アトピー性皮膚炎」が悪化している。
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「慢性上咽頭炎による症状には3種類あります。
ひとつめは炎症そのものの症状で、風邪の諸症状によく似ています。
ふたつめは、自律神経の乱れによる症状。
上咽頭には迷走神経が分布しています。そのため上咽頭に炎症を起こすと、炎症刺激が迷走神経を介して脳に伝わり、脳の機能異常を引き起こします。その結果、めまい、過敏性腸症候群、倦怠感、うつといった自律神経障害を中心とした症状を引き起こすことにつながります。
そして3つめが免疫システムの乱れによる症状です
上咽頭は免疫細胞が豊富で、本来なら免疫の関所として有害なものから体を守るのですが、慢性の炎症が起こると、活性化した炎症性物質(サイトカイン)を放出して、上咽頭から離れたところに症状を引き起こすことがあります。
そのひとつがアレルギー症状です。花粉症も多いのですが、最近は黄砂による症状の悪化をよく見ます。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなども上咽頭に炎症があると起こしやすくなります」
【慢性上咽頭炎で起こる可能性がある病気】
上咽頭炎の炎症そのものの症状
〇頭痛 〇肩・首のこり 〇咳ぜんそく 〇喉の違和感 〇鼻づまり 〇後鼻漏(こうびろう) 〇慢性的な痰(たん) 〇歯の知覚過敏
自律神経の乱れによる症状
〇めまい 〇睡眠障害 〇全身倦怠感 〇微熱 〇全身痛 〇消化器系の不調 〇集中力低下 〇うつ 〇しびれ 〇むずむず脚症候群 〇不安障害 〇起立性調節障害
免疫システムの乱れによる二次疾患
〇IgA腎症 〇ネフローゼ症候群 〇掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう) 〇アトピー性皮膚炎 〇花粉症 〇反応性関節炎 〇リウマチ性多発筋痛症 〇慢性湿疹 〇乾癬 〇潰瘍性大腸炎 〇胸肋鎖骨関節過形成症
「風邪は万病の元」といわれますが、上咽頭の炎症が全身の不調に多岐にわたりかかわっている可能性があることに驚きます。
不調が長引いていたり、原因不明と言われた人は、一度、慢性上咽頭炎を疑ってみては?
イラスト/green K 取材・文/山村浩子