【教えていただいた方】 1973年生まれ。日本医科大学卒業後、産婦人科医に。その後、美容皮膚科治療、栄養療法、点滴療法、ホルモン療法を統合したトータルアンチエイジング理論を確立。2008年「日本機能性医学研究所」を設立(2009年に法人化)。2017年、スーパーフードとしての牧草牛(グラスフェッドビーフ)の普及を目指し、日本初の牧草牛専門精肉店「Saito Farm」をオープン。2022年、機能性医学と再生医療を融合させた治療拠点として「斎藤クリニック」を開設。著書に『サーファーに花粉症はいない』(小学館)、「糖質制限+肉食でケトン体回路を回し健康的に痩せる!ケトジェニックダイエット」(講談社)、『病気を遠ざける! 1日1回日光浴 日本人は知らないビタミンDの実力』(講談社+α新書)ほか多数。斎藤クリニック、Saito Farm
「卵は1日1個」の掟はどこから来た? 昭和家庭のリアル
こんにちは。斎藤糧三です。
「機能性医学」を専門に、日本機能性医学研究所の所長を務め、表参道のクリニックで診療しています。
機能性医学というのは、病気を未然に防ぐために食事・栄養・睡眠などのライフスタイルを総合的に見直す医学のこと。
そんな私の視点で「昭和の健康常識」を紐解いていこうと思います。
第1回目のテーマは「卵とコレステロール」のお話!
私が小さい頃は「卵は1日1個まで!」という説がじわじわ来てました。
これが広まったのは昭和50年代から平成の初め(1975年〜1990年頃)。
健康に敏感な家庭ほど卵に厳しく、ゆで卵を毎日食べる人は心配され、卵焼き2日連続はNG。
「朝ごはんに卵焼き食べたでしょ?もう今日はダメよ」なんて言われるお父さん。子どもながらに「かわいそう…」と思ったものです。
その頃は「食事でとったコレステロールがそのまま血中コレステロールを上げる」と考えられていました。
現在では、ヒトの体には食べた分に応じてうまく調整する仕組みがあることがわかっています。
例えば、卵を食べると体は「もうあるから自分で作らなくていいや」と、肝臓でのコレステロール合成を減らしてくれるんです。
とはいえ、その調整がうまく働かない人もいます。体質や加齢、生活習慣の影響などで、食べた分のコレステロールがダイレクトに血中に反映されやすい人も…。
つまり、コレステロール値は「食べたコレステロール量」だけでなく「自分の体の仕組み」が大きくかかわっているんですね。
変わりすぎてついていけない!? コレステロール上限の迷走
「卵は1日1個」の空気がより加速したのは2005年。厚生労働省がコレステロール摂取量の上限値を表示したからでした。
「日本人の食事摂取基準 2005年版」に、コレステロール摂取の上限が【男性750mg未満/日・女性600mg未満/日】と明記されたんです。このことが「卵は1日1個」説を強く後押ししました。
当時の専門家向け資料や教科書には「卵1個で1日の摂取量の1/3になる」などという記述も多く見られました。
確かに、一般的な卵には1個当たり約200〜250mgのコレステロールが含まれています。
ただ、明確なエビデンスというより「誰にでも伝えやすい指導」の観点から、「卵=制限すべき食品」として刷り込まれていった気がします。
ところが!
2015年になると「科学的根拠が不十分」とされ、食事摂取基準 から上限値表記が撤廃!
「食事からとるコレステロール量は気にしなくていい」という認識が一気に広まりました。
そこで「卵は何個でもOKだったんだ!」と受け取る人が増えてしまったわけです。
でも実際には「一律に制限できるほどの根拠が不十分」というだけで「何個でもOKになった」というわけではなかったんですよね、これが。
記事が続きます「何個でもOK」はちょっと待て! 令和の正解はこれだ
さらに、2020年以降の食事摂取基準で今度は【コレステロールの摂取量は200mg/日未満が望ましい】と揺り戻しが…。
つまりここ20年ほどで、
「とるな」→「気にしなくていい」→「やっぱりちょっと控えて」
と、私たちは振り回されてきたんです。
じゃあ結局、どうなってるの? 何個食べていいの?
はい、はっきり言いましょう。
大切なのは「何個食べるか」ではなく「自分の体に合っているか?」
特に、LDL値が高めの人や脂質異常症と診断されている人、親が高コレステロール血症の人などは食事の影響を受けやすい。
さらにアレルギー体質や炎症傾向がある人は、別の視点が必要になります。
数値もHDL(善玉コレステロール)やnon-HDL(総コレステロールから善玉コレステロールを差し引いた値)、中性脂肪とのバランスなど、さまざまな指標を併せて見る時代に変わってきています。
俺のウンチが語る、卵アレルギーの真実
で、卵について「全然違う観点」からの注意喚起をしているのが、私、斎藤です。
機能性医学的には「食物過敏症(遅延型食物アレルギー)」の観点も入るので「卵は毎日食べていい」とは思っていません。
「1日食べたら1〜2日空ける」くらいのローテーションがベストだと考えています。
なぜかって?
日本人は卵白に反応する人が本当に多い!
ほんと、食物過敏症の自覚症状がない人が多いです。
実は私自身も初めて検査したとき、卵にけっこうなアレルギー反応が出ていてびっくり。
「え、俺? 卵アレルギーなの?」って。
卵は好きでずっと食べ続けていたし、自覚症状なんて全然なかった。でも、卵を除いた生活をしてみて気づいたんです。
「あれ? 最近、トイレの回数が減ったな」って。
以前は牛丼に生卵、ラーメンに味玉…と、食べれば2時間以内には火山噴火のようなトイレ。1日に何回も出てました。
実はそれ、卵アレルギーによる下痢だった!
最近も移動する電車の中で「ヤバい、早く降りないと!」となったんですけど。
ランチで知らずに卵を食べちゃってて、「もはや漏れそう事件」だったんです(笑)。
卵に限らず、不調の原因がいつも食べている食品だったということはけっこうあります。それを解明してあげるのも私の仕事。
クリニックでは120種類以上の食品について、食物過敏症(遅延型食物アレルギー)検査もやっていますよ。
健康な人が神経質になる必要はないけれど、「卵は毎日3個でもいい」なんていう万能食品扱いは危ないでしょう。
体の仕組みはそんなに単純じゃない。個人差があることを忘れないでほしいんです。
特に40歳以降はその差が大きくなりますから〜!
■まとめ■ 令和の常識はこれ!
昭和の「卵は1日1個」ルールがすべて間違いじゃないけれど、大切なのは自分の体質を知ること。
卵を何個食べてもいいのか? 正解はあなたの体が知っています。
時代とともに常識は変わる。でも、変わるべきなのは知識よりもそれを活かす自分自身の「気づき」かもしれません。
イラスト/小迎裕美子 取材・文・画像制作/蓮見則子