【教えていただいた方】

医療法人社団つくしんぼ会理事長。平成9年に、外来診療から訪問医療介護、在宅看取りまで連携したサービスを提供できる専門機関「つくしんぼ会」を設立。職種間の垣根を越えて自由に議論できる環境作りに努め、治療介護計画を立案し実践する体制を構築。患者に寄り添う医療を実践する。著・監修書『身近な人の突然死・寝たきりを防ぐ心臓と脳の正しいケア』(自由国民社)など。

将来「寝たきり」になりたくなければ、生活習慣病を放置しない
「どのように死にたいか?」と問われたら、多くの人が望むのが「ピンピンコロリ」ではないでしょうか? 死ぬ直前まで元気でいてポックリ死にたい、「寝たきり」のまま長く生きるのはツライというものです。
では、「寝たきり」になる要因にはどんなものがあるのでしょうか?

「確かに苦しむことなくポックリ死にたいという気持ちはわかります。一般的に突然死を引き起こす要因で多いのは、脳の血管が詰まる脳梗塞や血管が破れる脳出血など、脳卒中が挙げられます。しかし、こうした脳卒中においても、なかなかポックリとはいかないものです。
多くは、手足の麻痺や言語障害などの後遺症に悩まされながら、介護を受ける生活を余儀なくされるのが現状です。
※突然死とは、WHO(世界保健機関)の定義では、「それまでに健康に見えた人が瞬間死あるいは発症後24時間以内に内因死(病気が原因の死亡)したもの」とあります。
将来、できるだけ『寝たきり』を避けるためには、こうした脳卒中などの血管障害を引き起こす、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病を放置しないことです。
これらは自覚症状がなく進行します。健康診断などで異常数値と診断された場合にはきちんと治療、コントロールすることが重要です」(鈩裕和先生)
脳卒中が疑われる症状には下記のようなものが挙げられます。
【脳卒中の主な症状】※こんな症状があったら直ちに医療機関へ!
〇めまいやふらつきがある
「良性発作性頭位めまい症」や「メニエール病」などの耳の病気のこともありますが、脳梗塞などの脳の病気の可能性もあります。
〇片方の目が見えにくくなる
視野の一部が欠けたり、片方の目が見えにくくなる、物が二重に見える場合は、目の病気の可能性もありますが、脳梗塞による視野障害・視覚障害というケースもあります。
〇はしなどを落とす
手足や顔の片側がしびれたり、力が入らないという症状は、脳の血管が血栓により一時的に詰まって起こることがあります。自然に血栓が溶けて流れることもあり、すると元に戻ります。しかし、このような症状があったら、医療機関への受診が必要です。
〇ろれつが回らない、言葉が出てこない
ろれつが回らない、話そうと思う言葉が出てこない、相手の話していることが理解できない場合は、脳梗塞の可能性があります。すぐに医療機関に!
〇激しい頭痛と吐き気がある
後頭部に突然、激しい痛みが起こった場合は、くも膜下出血が疑われます。救急搬送での速やかな治療が救命につながります。一時的に症状が治まることもありますが、必ず医療機関の受診を!
「これらの症状が現れたら、かなり状態は進行していて、緊急に治療することが必要です。まずはそうならないために、40代からの体のケア、生活習慣病の予防をしっかりしましょう」
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睡眠薬の常用に要注意!
「寝たきり」につながる要因は、上記のような血管障害を引き起こす生活習慣病の放置のほかに、どんなものがあるのでしょうか?
「実は、とても多いのが5剤を超えた複数の薬、特に睡眠薬と安定剤の常用です。日本人は薬に頼る傾向があり、特に高齢になると、あちこちに体の不調を感じて複数の医療機関にかかっていることがあります。そのつど薬を処方してもらうため、複数の薬を飲んでいる人が少なくありません。
複数の薬が処方されていて、副作用や薬物有害事象のリスクが高まる状態のことを、『ポリファーマシー(多剤併用)』といいます。現在、医療現場ではこうした過剰投薬が問題のひとつに。本当に必要な薬を、整理して適切に服用することが求められています。
また、中には依存性が確認されている薬剤もあります。その代表的なものが睡眠薬です。
年齢とともに睡眠が浅くなり、寝不足を感じるようになります。これを改善しようと睡眠薬を常用する人も増えてきます。もともと睡眠薬は睡眠のリズムを整えて生活の質を上げるのが目的で、一時的に使うのが前提です。
しかし、睡眠薬は投薬をやめるときに、過剰な精神刺激が起こり、不安やイライラ、震えなどの離脱症状が現れることがあります。そうなると薬がないと不安になり、なくてはいられなくなります。
さらに、体が薬に慣れて効きが悪くなるので、どんどん強力なものになったり、量が増えていく傾向です。こうなると一日中ボーっとして、通常の生活がしにくくなったり、転倒しやすくなります。転倒による骨折も「寝たきり」になる大きな原因です。特に、高齢になってからの睡眠薬の常用は注意が必要です。
医師の中には、睡眠薬を『軽い安定剤』だと言って処方する人もいますが、決して軽い薬ではありません。また、『痛み止めの薬』を患者さんの自己判断で、痛みが治まってからも睡眠薬代わりに飲む人がいます。これもぜひともやめてほしい行為です。
もちろん、転倒による骨折で寝たきりになるのは、かなり高齢になってからのお話です。しかしながら、将来こうした原因を作らないために、日日頃から生活のリズムを整えて、生活習慣病の予防や体調管理をしっかりしておくこと。今からの心がけと実践がとても重要なのです」
イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子


