動脈硬化は自覚症状なく進行する
動脈硬化と聞くと、肥満男性の病気のイメージです。
「確かに男性のほうが早い年代からリスクが高くなる傾向ですが、女性も閉経後に増えてきます。動脈硬化を予防するためには、今から正しい知識を持ち、対処していくことが大切です」(鈩裕和先生)
では、動脈硬化とはどんなもので、どのように形成されるのでしょうか?
「動脈は心臓から体の隅々まで、新鮮な血液を運ぶ働きをしています。この血管が加齢やなんらかの原因で弾力を失ったり、血管壁が狭くなるなどして、血液の流れが悪くなる、時には完全に詰まってしまうことがあります。このような血管の状態が『動脈硬化』です。
動脈の壁は老化によっても硬くなり、もろくなります。それ以外にも拍車をかける大きな原因が、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病です。
糖尿病や高血圧、脂質異常症などはどれも血管壁にダメージを与えます。こうして血管壁に傷ができると、それを修復しようと白血球が集まります。ここに過剰なコレステロールがあると、内膜が分厚くなり、やがて粥状のプラーク(粥腫)を作ります。このプラークが過剰にたまり血管の内皮が破裂して血栓ができると、血管を狭めたり、血流を止めることになります」
【動脈硬化ができる仕組み】
上 正常な血管。
中 傷ついた血管を修復しようと集まった白血球とコレステロールがプラークを作る。
下 プラークが過剰にたまって血管の内皮が破れると、血栓ができて血管を塞いでしまう。
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「動脈硬化は心臓病を引き起こすことがあります。心臓には表面を覆うように『冠動脈』が走っていて、心臓に酸素や栄養を届けています。この冠動脈が、動脈硬化により血管内壁が狭くなったり閉塞すると、心臓は酸素不足になります。この状態を『心筋虚血』といい、代表的なものが『狭心症』、完全に血管が詰まってしまうことを『心筋梗塞』といいます。最悪、命を落とすこともある怖い病気です」
また、これが脳内で起こるのが『脳梗塞』です。動脈硬化により血管が詰まり、脳の組織に十分な酸素や栄養が届かず、神経細胞が死んでしまう病気です。命にかかわるリスクがあり、一命を取り止めたとしても重い後遺症が残ることが少なくなく、中には『寝たきり』になることもあります。
ほかには、脳の血管が破れて出血するのが『脳出血』、脳を覆うくも膜と軟膜の間に出血が起こるのが『くも膜下出血』です。
こうした脳の病気の総称を『脳卒中』といい、後遺症が残りやすいので注意が必要です。後遺症はどこの血管が詰まったかにより異なります」
【脳卒中による主な後遺症】
〇運動障害/片側の手足の麻痺
〇感覚麻痺/手足、顔のしびれ
〇言語障害/言葉が出にくい、言葉が理解できない
〇視野障害/片方の目が見えにくい、視野の一部が欠ける
〇嚥下障害/食べ物をうまく飲み込めない
〇意識障害/意識レベルの低下
生活習慣病の治療・コントロールが必須
「動脈硬化は自覚症状がなく進行します。その予防策は、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を放置しないことです。
動脈硬化を進行させる要因は、過食や運動不足に加えて、過度なストレスや寝不足などが挙げられます。こうした生活習慣を改めていくことが予防や改善には必須です。そのうえで、必要に応じて投薬療法も用いられます。
人の体の状態はさまざまです。コレステロールが高めでも、血圧が正常であれば、それほど心配はいらないこともあります。中には糖尿病と脂質異常症の両方、あるいは高血圧も含めた3つが重なっている人もいます。こうなると、何を優先して治療していくかはケースバイケースになります。
生活習慣病の治療では、投薬療法をかたくなに拒む人、逆に薬に頼って生活習慣を改めない人もいます。主治医とよく相談して、必要な薬を使いつつ、生活を改めて上手にコントロールしていくことが大切です」
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【教えていただいた方】

医療法人社団つくしんぼ会理事長。平成9年に、外来診療から訪問医療介護、在宅看取りまで連携したサービスを提供できる専門機関「つくしんぼ会」を設立。職種間の垣根を越えて自由に議論できる環境作りに努め、治療介護計画を立案し実践する体制を構築。患者に寄り添う医療を実践する。著・監修書『身近な人の突然死・寝たきりを防ぐ心臓と脳の正しいケア』(自由国民社)など。

イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子


